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2009年5月22日 (金)

四川のうた

ジャ・ジャンクーの新作を再度見た。壊されることになった成都の巨大な兵器工場「420工場」の労働者へのインタビューを中心に、グローバリゼーションの進行でかつての共産主義の象徴がなくなってゆくさまを描いた傑作だ。この監督は、資本主義で変貌する中国をリアルでユーモラスに描くことにかけては天才的だが、「長江エレジー」からは、これまでの共産主義中国の遺物を対照させながら、歴史そのものの亀裂を見つめるような映画を撮ってきた。当たり前だが、共産主義も、文化革命も、いいことも悪いこともあった。そこで生きてきた人間の存在だけが、その記憶だけが重要で、政治体制はたいしたことではない、とでも言いたげだ。工場の中やアパートで、無言で立ち尽くす人々、流れる当時の歌、文字で差し込まれる詩。映画は止まった時間を、動かない廃墟を記録する。映画は平面に戻る。もはや演技もアクションもなく、正面を向く人々、窓辺にたたずんで語る男女の言葉、歌、挿入される詩の文字。記憶の断片が舞う。ときおり現れる黒い画面。人が現れるとまるでサイレント映画のように名前や略歴が文字で説明される。最後のシーンに現れるのは「成都」という文字。
素人と俳優を混ぜて起用したフェイク・ドキュメンタリーであることの意味を指摘した評論が多いが、そんなことは大した問題ではない。すべてのドキュメンタリーは、リュミエール兄弟の時代からフィクションなのだから。そういえば、リュミエールの「工場の出口」とそっくりのシーンもあった。もっともこちらは何倍も大きい工場だけど。最初のショットが「工場の入り口」なのも笑わせる。ジャ・ジャンクー監督は確実に映画史を生きている。
それにしても中年の男の思い出話で、高校生の頃別れる恋人が最後に「赤い疑惑」の山口百恵の髪型で現れたエピソードとそこに流れる「赤い疑惑」の歌、そしてイェーツの詩の文字が流れるシーンには泣ける。中国での山口百恵や高倉健の人気の話を聞くのは初めてではないが、本当に驚く。

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