« 夏時間の庭 | トップページ | EUフィルムデーズ »

2009年5月29日 (金)

カンヌ国際映画祭と日本の映画配給会社

昨日の朝日新聞夕刊に深津純子記者によるカンヌ・レポートがあった。世界的な不況が今年のカンヌを覆っていたことがよくわかり、見本市のブースや国際合作に対する日本政府の対応が外国に比べてちぐはぐなことの指摘も鋭かったと思う。1点だけ違うと思うのは、日本の配給会社の買い付け本数が減っていることについてだ。

実は日本の配給会社は、世界不況が始まる前に自ら瓦解していた。21世紀になってから、独立系の大手配給会社は法外な値段で買い付けた外国映画が当たらずほとんどが倒産状態となり、ほかの業界に買収された。ヘラルド映画は角川書店に、ギャガ・コミュニケーションズはUSENに、日活はインデックスに、アミューズは東芝に(さらに博報堂に)、それぞれ買収されたのは5年前から2年前の話で、まだまだ日経平均株価が1万5千円前後の景気のいい頃だ。これらの大手は90年代頃から競って外国映画を買いまくり、競る形で日本人同士で値段を吊り上げた。映画が出来上がる前にA4一枚の企画書に対して、単館系の作品を100万ドル(約1億5千万円)前後で買い、チェーン系を500万ドル(7億5千万円)で買うようになった。ちょうどシネコンが全国に広がった時代なので、「ミニチェーン」と称して、アート系の映画を50館や100館で同時に公開することも流行った。当然宣伝費やプリント代は何倍もかかる。そうして億単位の宣伝費をかけて、権利金どころか宣伝費も回収できない映画が死屍累々と並んで手が付けられない状態になったのが、2003年頃からだろうか。
おそらくそのきっかけを作ったのは、ギャガだろう。80年代末にできたこの会社は、かつてはビデオ用のタイトルを束でまとめ買いするので知られていたが、映画とは異業種の人材を次々に入れて新しい手法を繰り出して、買い付け合戦や宣伝戦争の台風の目となった。2000年頃にはカンヌに100人近く送り込んでいたこともあった。最近のニュースだとUSENもギャガを手放し、何と木下工務店の傘下に入るらしいが。
映画ファンの質も変わった。監督の名前や、映画評を読んで見に行く人は減った。1館で始める映画でも、ある程度宣伝費をかけないと見に行く人はいなくなった。かつては映画ファンと言えば、外国映画、とりわけアメリカ以外の国の映画を好きな人が多かったが、「失われた十年」の間に日本人全体が内向きになったこともあり、知らない外国への関心は薄れた。そのうえ、最近は話題のサイクルも短くなった。88年にそれなりに難解なヴェンダース監督の「ベルリン 天使の詩」は60週連続で1年以上のロングランをしたが、今では10週間やったら大成功である。だからこそ配給会社は短期での回収を目指して宣伝費をかけ、映画ファンは麻薬のように宣伝の物量作戦に麻痺してしまった。
映画会社はこの負のスパイラルから抜け出すために、お金に頼らない戦略を考えないともっとひどいことになるだろう。それは観客の問題でもある。今後も世界各地の多様な映画を映画館で楽しみたいのであれば。

|

« 夏時間の庭 | トップページ | EUフィルムデーズ »

映画」カテゴリの記事