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2009年9月 3日 (木)

『オルエットの方へ』

『アデュー・フィリピーヌ』で知られるジャック・ロジエ監督が1969-70年に作った日本未公開作品の初号試写を見た。こんなに早く見たのは、配給会社の人が23年前に私が雑誌『リュミエール』に書いたロジエ論を覚えていて、声をかけてくれたからだ。たぶん活字になった初めての文章だったが、まさか覚えている人がいるとは。

『オルエットの方へ』はフランスでもいつ公開されたかわからないような作品で、当然日本でも公開されていないが、今見てみると『アデュー・フィリピ-ヌ』を上回るような痛みに満ちた青春映画の傑作だ。8月末からの遅いバカンスをヴァンデ県の海辺の別荘で過ごす3人のOLたちの一月余りを淡々と描いた映画で160分もあるが、全く退屈しない。まるで後のロメール映画のように日付画面が時おりはいり、毎日が自然にしかし濃厚に過ぎてゆく。
とにかく何を見ても笑いだす3人。ケーキを買ってきて食べたり、海辺の男に誘われてヨットに乗ったり、あるいは職場の上司に会って、うなぎをもらってきたり。
まるでシナリオがないかのように女たちは自由で、一台のカメラがドキュメンタリーのように追いかける。階段を登る音や海の音もしっかり同時録音されていて、雑音だらけだ。ヨットのシーンはなぜかすごい迫力で、カメラの存在を忘れてしまいそうになる。ときおり見える海や夕日の美しさ。たぶん16ミリで撮られた映像だが、その画面の粗さがまたいい。後半の夕日を背景にした人物のアップも効果的だ。夏の終わりと青春の哀しみが重なり合う。
上司に言い寄られるが実はボートの男が好きなジョエル、ヨットの男に気に入られた子供のような顔をしたカリーン、すばらしいプロポーションを見せるキャロリーヌ。彼女たちの微妙な女ごころの移り変わりが繊細に描かれている。上司役は『メーヌ・オセアン』で車掌を演じるベルナール・メネズで、うなぎを料理しようとしてこぼしてしまうシーンなど本当におかしい。
たぶん監督はこのメネズ演じる男のように、若い女性たちを自由に遊ばせながら自分も楽しんでいるうちに映画を撮ったのではないだろうか。
そういえば2001年のベネチアで新作『フィフィ・マルタンガル』を見たが、実は失望した記憶がある。

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