『ユキとニナ』は諏訪監督の新境地
諏訪敦彦監督が、フランスの俳優イポリット・ジラルドを共同監督に迎えて作った新作『ユキとニナ』は、これまでの諏訪ワールドから大きくはみ出す快作だ。
これまでの諏訪の映画は、息詰まるような人間関係を長いショットで容赦なく描く、といったものが多かった。『H Story』にしても『不完全なふたり』にしても、おもしろいけど見ていて疲れてしまう、そんな映画だった。
ところが『ユキとニナ』は明らかに違う。いたるところにユーモアとわかりやすさが溢れている。とりわけ後半の森のシーン以降の解放感や幸福感はこれまでの諏訪作品になかったものだ。最後までどのような結末かが見えてこない。
監督経験のない俳優を共同監督に迎え、女の子ふたりを主人公にするという設定が、こうした新しい世界を生んだのだろう。
それにしても何度も出てくるユキのパリのアパートの中庭が、何とも気持ちがいい。女の子たちが遊んだり悪だくみをしたり、日本に行く母親を部屋の窓から見送ったり。いろいろな家庭から出てくる音が伴奏を奏でる。
イポリット・ジラルドはこれから監督としても活躍するのではと思ったが、東京日仏学院で開かれた記者会見では、「監督業はこのあたりでやめるのがいいかも。むしろ子供というテーマに目覚めたので、小説や絵を書いたりすることに関心がある」と語っていた。残念。
1月23日公開。たぶん諏訪監督の一番のヒットになるのでは。
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