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2009年11月17日 (火)

佐藤忠男氏の大きな射程

「フィルムネットワーク」という小冊子が、コミュニティシネマセンターというところから定期的に出ている。そこで最近始まったベテラン映画業界人への高崎俊夫氏のインタビューが面白い。

映画人と言っても映画監督や俳優ではない。映画会社の幹部でもない。おおむね一人で戦後の映画史に名を残すような仕事をしてきた個人が選ばれていて、これまで映画評論家の秦早穂子氏やフランス映画社の柴田駿氏が登場して彼らの戦後史を語っている。昨日届いた最新号は、映画評論家の佐藤忠男氏の後半だ。
なるほどと思ったのは、新聞や雑誌から注文が来ないから「座して待つよりはとにかく何かやらなければならない」と、書き下ろしの監督論を書き始めたくだり。確かに日本では、監督について一冊を書く評論家は少ない。佐藤氏は小津、黒澤、溝口など巨匠についての本を一冊づつ残していった。映画評論家の数は多いが、きちんと監督論を書く人は今も少ない。彼は日本映画史全4冊も一人で書いた。
もう一つは映画評論家を超えた活動だ。教育評論を手掛けていた1960年代は、「マスコミ全体を批評するような立場にいたいと思った」という。そして今の映画評論家は、試写室で「いい」「悪い」というのではなく、映画祭をやったり文化施設のプログラムに係わっていかないとダメだという。
最後に「映画は森羅万象を扱うから。映画批評家という、世界に対して一番広い好奇心を持てるポジションを確保したい」。この人の射程は、予想以上に大きかったと今さらながら思う。

そういえば昔、京橋のフィルムセンターがまだ古い建物だった頃、佐藤氏が映画を待つ列で壁に向かって原稿用紙に書いていたのを見たことがある。その時は「カッコワル」と思ったが、そうやって百冊を超す本を書き上げたのだろう。

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