「カイエ」誌の変貌
11月号のフランスの映画雑誌『カイエ・ドゥ・シネマ』でツァイ・ミンリャンの『ヴィザージュ』が酷評されていた。『カイエ』と言えば、一度これと決めた監督はどんな駄作を撮っても守り続けるという作家原理主義の雑誌だと思っていたので、ツァイ・ミンリャンをここまで攻撃していたのには驚いた。
『カイエ』誌も今年になって『ル・モンド』紙が手放し、イギリスの美術系出版社「ファイドン」に買収されたので、最近はちょっと傾向が変わったのだろうか。署名はS.D.だから新編集長のステファヌ・ドゥロルムの文章だ。
彼によれば『ヴィザージュ』がよくない理由は2つ。1つはルーヴルという大組織と映画作家が組んだことで、作家が好き放題やってしまったこと、もう1つは「諏訪敦彦の『H ストーリー』と同じくヌーヴェルヴァーグのノスタルジーの霧笛に惑わされたこと」という。確かに『ヴィザージュ』へのトリュフォーへのオマージュはやりすぎで気持が悪い。それをフランス人が、それも『カイエ』誌の編集長が書いている。私自身はこの映画より『H ストーリー』の方がずっといいとは思うけど、確かにそこにある種の居心地の悪さは感じる。
作家原理主義では読者(観客)はついてこないし、監督にとってもよくない。そしてヌーヴェル・ヴァーグや『カイエ』誌を神話化することからは、もはや創造的な試みは生まれない。そのことをようやく『カイエ』誌自身も自覚しつつあるのだろう。
さて、このような映画をオープニングで上映する「東京フィルメックス」をどう考えたらいいのだろうか。
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