いまさらながら『OUT』を読む
桐野夏生の『IN』に衝撃を受けたと友人に話したら、『OUT』の続編かと聞かれた。確かに本のオビにも「『OUT』より12年目の衝撃」と書かれている。実は『OUT』は読んでいなかったので(というか、この小説家はほとんど読んでいない)、いまさらながら読んでみた。
結論から言うと、『IN』と『OUT』は全く関係がなかった。『OUT』は社会の底辺の女たちが手を結ぶ恐ろしい物語だが、『IN』は一人の女性作家の書くこと自体をめぐる小説だ。前者が次々と事件が起こる大衆小説的、あるいは形而下的(という言葉は最近使わない)とすれば、後者は純文学(この言葉も死語に近い)というか、抽象的というか。
『OUT』の世界は、読み続けるのも時々嫌になるほど陰惨だ。これでもかと人殺しのシーンが出てくる。しかしおもしろくてやめられない。実はちょうど埼玉のはずれに行く途中に読んでいたが、途中で車窓に映る古い団地を見ると妙にリアリティがあって、ちょっと怖かった。
『IN』では殺しはない。ここでは死をも内在化し、書くこと自体の意味を問いただすという究極の課題を抱えてしまった桐野の現在が見えてくる。
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