束芋の皮膚感覚
横浜で映像の展覧会というと、「ヨコハマ国際映像祭」の悪夢が甦ってきそうでいやだけれど、横浜美術館で開催中の「束芋 断面の世代」展はおもしろかった。2001年の「横浜トリエンナーレ」で最年少の出品作家として注目された1975年生まれの女性が、その後どのように自分の世界を広げていったかを存分に見せてくれた。
束芋は、単に正面から映像を見せるだけでは満足しない。それだったら映画にかなわないことを知っているかのようだ。観客を包むように映像を設定したり、足元や左右で映像を同時に見せたり。そこで語られるのは、日本的なしっとりした皮膚感覚をベースにした不思議なファンタジーだ。肉体と植物が混ざったり、筆で描かれるタッチに人間が飲みこまれたり。
全体を極めて暗くして黒でまとめた空間演出がいい。ここまで真っ暗な美術館は見たことがない。美術館に入った瞬間、真っ暗で驚いた。その広いエントランスの正面に、団地の断面が壊れてゆく作品が投射されており、その周りの空間にも映像が映る。横浜美術館といえば、あの広いムダな空間を思い出すくらいだが、あれだけ有効に使ったのは初めてだ。その包み込みような入口があるから、束芋の皮膚感覚の物語が生きる。ここまで暗くすると観客の苦情や事故を心配するものだが、これは美術館の勇気だろう。
作家と美術館の共同作業の勝利である。3月3日まで。
「ヨコハマ国際映像祭」には2億円を使ったらしいが、横浜市はそんな予算は横浜美術館に回すべきだと思った。
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