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2010年2月 5日 (金)

『オーケストラ!』または音楽映画の魅力

音楽をテーマにした映画は楽しい。『アマデウス』をはじめとしてモーツァルトやベートーベンを主人公にした映画はいくつもある。満員の荘厳な劇場で音楽を聴けるだけで気持ちが良くなる。
オーケストラができるまでを撮った映画も抜群におもしろい。個性的な演奏家たちが練習を重ねるうちにだんだん調和ができていって、最後にまとまればそれだけで映画になる。GWに公開される『オーケストラ!』もそんな期待を持って試写を見に行った。

30年前のソ連でユダヤ人ゆえに追い出された元ボリショイ交響楽団の演奏家たちが再結集し、パリでコンサートを開く。「寄せ集め楽団が巻き起こす奇跡の物語」とチラシに書かれている。長年音楽を忘れていた人々が練習するうちに本来の才能を発揮してゆくのかと期待したが、ちょっと違った。
主人公の元指揮者は、モスクワを回ってかつての仲間をかき集めてパリに行くが、いつまでたっても練習は始まらない。彼らがいかにも怪しげで、空港やパリのホテルで騒動を巻き起こすさまを、まるでクストリツァの映画のように誇張されたユーモアで描く。それはそれでおもしろいが、期待した練習のシーンはほとんどなく、リハーサルさえもなし。
最後にたった一度のチャイコフスキーのバイオリン協奏曲で、実にすばらしい演奏を見せる。そのシーンはなかなか良くできているので思わず心を動かされるが、それにしても通常のオーケストラ映画としてはちょっと物足りなかった。
この楽団に加わるパリの女性バイオリニスト、アン=マリーと主人公の秘められた過去の物語もメロドラマとしてはいま一つだ。

オーケストラの映画は、最近でも『ウィーン・フィルの子供たち』とか『オーケストラの向こう側』、『ヴィットリオ広場のオーケストラ』など秀作が多かった。『オーケストラ!』はそうしたメロドラマ構造のオーケストラ映画ではなく、むしろロシア的な猥雑さを誇張されたグロテスク・リアリズムで描いた部分を楽しむべきだろう。そう思うとアジアとヨーロッパにまたがるロシア人の不思議な魅力が見えてくる。1回だけの演奏にしたのも、彼らが見事な演奏家に変身する落差を見せつけるためだろう。

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