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2010年2月20日 (土)

フランス映画における物語の現在

3月のフランス映画祭の試写で、出だしがそっくりなのに全く違うフランス映画2本を見た。1本は『ミック・マック』で、かつて『アメリ』で一世を風靡したジャン=ピエール・ジュネ監督の新作。もう1本は映画通に人気のアルノー・デプレッシャン監督の『クリスマス・ストーリー』。
『ミック・マック』は西サハラで父親が地雷で殺されて、30年後に成長した主人公も銃で撃たれて職を失うところから始まる。『クリスマス・ストーリー』は40年前に長男を6歳で亡くすシーンが出だしだ。共に最初に家族の死が映し出されてドラマチックに物語が始まるが、その後が全く違う。

『ミック・マック』は、主人公が知り合ったガラクタ修理屋とその仲間たちと組んで、父の地雷を作った会社と、その向かいにある自分を撃った銃を作った会社への仕返しを始まる。『アメリ』の監督らしく、凝りに凝った映像でさまざまな仕掛けが見られて楽しい。
物語にいろいろな要素を詰め込んでファンタジーにしてしまうジュネ監督らしい演出だが、復讐そのものよりもその過程で起こる仲間たちのヘマがおかしいので、緊張感はゆるんでしまう。とりわけ主人公を演じるダニエル・ブーンのチャップリンばりの身体的な演技がすごい。ジュリー・フェリエの柔らかいゴムのような体やヨランド・モローの相変わらずの存在感も楽しい。

『クリスマス・ストーリー』は、死んだ長男という記憶を持つ家族が、老いた母の病気による輸血をきっかけに両親が住む北フランスの街ルーベに一家が集う。この家族を演じる役者たちが曲者ぞろいで、母を演じるカトリーヌ・ドヌーヴは全く病気のように見えず優雅だし、父親役のジャン=ポール・ルシヨンはお爺さん然としてとてもドヌーヴと夫婦には見えない。そしてなんと言っても姉に嫌われているマチュー・アマルリックは、アル中の弟役を実に楽しそうに演じる。義兄のイポリット・ジラルドはすぐに怒りだして出て行ってしまうし。
劇的な始まり方をした映画だし、あえてサイレント映画のようにアイリスなどを使ったりしているのに、役者たちは勝手に動き、物語はいつ終わるともしれず続いてゆく。まるでジャック・リヴェットの映画のように、物語と演技の齟齬が不思議な魅力に転化する怪作である。

個人的には『クリスマス・ストーリー』の映画的冒険を評価するが、この監督はもう普通の観客向けの映画は作れなくなったのかもしれないと思った。ともに恵比寿ガーデンシネマで夏から秋にかけて公開。

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