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2010年2月 9日 (火)

『インビクタス』に見る南ア

先月見た「ウィリアム・ケントリッジ展」で急に南アフリカの歴史について考えていたら、最近立て続けにそこを舞台にした2本の映画を見た。封切られたばかりのイーストウッド監督の新作『インビクタス/負けざる者たち』と、突如アカデミー賞に4部門もノミネートされた『第9地区』だ。

『インビクタス』は、ネルソン・マンデラが30年近い牢獄生活から解放されて大統領に選ばれてからの日々を、そこで開かれたラグビーのワールド・カップを中心に描く。基本的にはモーガン・フリードマン演じるマンデラの偉人伝だし、マット・デイモンがキャプテンを演じるラグビーチームが勝つ話なので、最近の『グラン・トリノ』や『チェンジリング』などのような痛みに満ちた話ではないし、物語も単純だ。後半はスローモーションも多いし、音楽もふんだんに使われていて観客を乗せて行くような、ある意味では“軽い”映画である。しかしM・フリードマンのマンデラはリアルで、特に2つの演説のシーンはそれだけで感動してしまう。あるいはM・デイモンのラグビーのシーンは、肉体のぶつかりあいが痛々しく、そして気高い。最近の彼の映画と比べても映像的なテクニックをあまり感じさせない透明な演出で、ちょうどハワード・ホークスの映画のようだ。
マンデラがラグビーを利用して国民の意思を統一し、同時に世界からの認知を求めたなんて全く知らなかった。この映画は、実は神様のように尊敬されたマンデラの計算づくの日々を丹念に見せるところがキモだ。南アのラグビー・チームが勝ち進んでいくさまは美しいとしか言えないが、それを冷静に計算しながら政治に利用してゆくマンデラの姿に映画ならではのおもしろさがある。もちろんその背後に30年近い投獄の日々があることが画面に深みを与えており、映画ではラグビー選手たちが訪ねる形でその独房も見ることができる。

イーストウッドは硫黄島の連作で日本人を扱い、『グラン・トリノ』ではアジア系移民を扱った。そして今度はアフリカ。まるで多文化主義を実践しているかのようだ。かつては彼の象徴だった復讐はもうない。マンデラはあらゆる復讐を禁じている。イーストウッドはあまりにも完璧な存在になってしまったような気がする。
封切り2日目の日曜午後の丸ピカ1だったが、半分も入っていなかった。誰が見てもおもしろいのに。

『第9地区』については後日書く。

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» 映画:インビクタス Invictus 開始5分で既に号泣(笑) これまた強烈な1発にノックアウト! [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
昨年は「チェンジリング」で、まずファースト・ダウン。 続いて、ヤバイかもと身構えたにもかかわらず、ぶっ飛ばされた超魔球「グラントリノ」 そして今日、 三たびふっ飛ばされノックアウト! ナゼここまで書くかというと..... 過去触れているように、私はずっと「イースドウッド監督もの」嫌いだったからだ! と聞けば、ただのスポーツ物では全くないことをご理解いただけようか。 タイトルにもあるように、最初の5分だけで、もう既に「号泣」(マジで) あとは思想とか批評とかなんていう概念なぞ超越し、ただ画... [続きを読む]

受信: 2010年2月 9日 (火) 08時22分

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