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2010年3月29日 (月)

蓮池薫氏の知性

数日前の朝日新聞で、蓮池薫氏への1ページのインタビューがあった。それが実に知性あふれたものだったので、思わず彼が書いた『半島へ、ふたたび』を買って読んだ。自分の身に起こったとんでもない不幸を、冷静にかつユーモアを交えながら書くスタイルがいい。前半は、韓国を訪れた話で、後半は翻訳家として生きている毎日についてのエッセーだ。

もちろん衝撃的なのは前半。飛行機から「黒みがかった森と赤みがかった茶色の田野」を見て、「そうだ。かの地の色だ。僕達が二十四年間、すべての自由を束縛されていた、かの地の山野の色だった。やはり体は覚えていた」と書く。降り立ったのは金浦空港。よど号で有名になった空港で、当然拉致と関係がある。北朝鮮の人々は、よど号事件について一切知らされていないという。
ソウルで時間が余って、偶然に刀剣のギャラリーに入る。そこで何かお土産を買おうとして、手裏剣を買う。小さい頃ブリキで星型の手裏剣を作っては雨戸や庭木に投げて、祖父に怒られたことを思い出したからだ。その祖父は蓮池氏が拉致されて3年後に亡くなったが、最後まで孫の名前を叫んでいたという。
ソウルで初めての夜に、ホテルから夜景を見ようとして、日本での24年ぶりの夜を思い出す。赤坂プリンスホテルに泊ったが、マスコミのカメラがあるからカーテンを閉めるように言われ、深夜にこっそりと外を見ると、夢のような明るさだったという。何を見ても拉致の記憶に連なってゆく。

後半は翻訳者としての日常。何と5年間で16冊も出したという。これは「元拉致被害者」などというレベルではない。最初の翻訳を新潮社に送って、「なかなかの出来」と言われて喜ぶ瞬間。自分が翻訳をした作家が韓国から来た時には通訳を自ら希望し、そのために韓国語会話を猛勉強する。それらはすべて「失われた24年間を取り戻すため」にやっているという。

私は同じくらいの年月を会社員として過ごした。それなりに楽しかったけれど、「取り戻したい」と思うことも、ないわけではない。もちろん蓮池氏とは比較にならないけれど。

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