寂しいSF映画2本
SFにしてはずいぶん寂しいアメリカ映画を2本見た。1本は現在上映中の『月に囚われた男』で、もう1本は5月8日公開の『9 ナイン』。小学生の時に人類初の月面着陸をテレビで見て以来、どうも月をめぐる映画は好きでだいたい見る。『月に囚われた男』もいかにも私好みのテーマなので、期待して見に行った。
地球のエネルギーの大半は月で作られて送られる時代。3年契約で月に送られた主人公は、あと3週間で任期が切れるという時になって事故に遭う。そして気がつくと、自分そっくりの身代りがいた。実は事故に備えてクローンが何体も備えられていたというもので、見ていると目まいがしそうだ。
妻から送られるビデオ・メッセージもどこか不自然で哀しくなる。頼るのは友人のように世話をしてくれるコンピューターのみ。そのコンピューターが地球の本部とつながっていないなどいまひとつ設定に無理があるし、突っ込みどころはあるが、月の上で寂しく生きてゆく感じが悪くない。妻にテレビ電話をすると、なぜか10年くらいたっていて、妻は亡くなっていて15歳になった娘が出てくるシーンが何とも切ない。デビッド・ボウイの息子が監督らしいが、『地球に落ちてきた男』の逆バージョンのようでもある。
月のエネルギーを供給しているLunar社が韓国系というのも、ちょっと今ふうだ。ロゴの横にハングル文字も書かれている。
『9 ナイン』は、現在公開中の豪華絢爛なミュージカル映画『NINE』とは全く別物。こちらは人類滅亡後の地球で、麻布を縫い合わせて作った人形が目を覚ますというファンタジーだ。最初は1体かと思っていたら、次第に仲間が集まって、9つの個性豊かな人形が機械の獣と闘う。人形は手作り感溢れて実に魅力的だが、おもしろいのは廃墟になってしまった地球だ。まるで20世紀初頭のヨーロッパのようなちょっと古めかしい感じがいい。ストーリーはたわいないのでちょっと退屈するが、何か全体に強烈な寂しさが漂ってくる。
『アバター』や『第9地区』のような戦闘シーン中心のSFが苦手な人にお勧めかもしれない。
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