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2010年4月 3日 (土)

『ナニカアル』の不穏当さ

どうも桐野夏生にはまったようだ。最新作の『ナニカアル』を本屋で見たら、買わずにはいられなかった。桐野夏生が林芙美子の戦時中の不倫を書くというだけで、もう不穏当な感じが漂ってくる。本の題名自体が思わせぶりだし、オビには「女は本当に罪深い」と書かれている。

実際読んでみると、『IN』ほど小説家の複雑な心理や日常の虚実が描かれているわけではなかったが、それでも十分におもしろかった。林芙美子が7歳下の毎日新聞の記者と付きあいはじめるくだりや、その記者がボルネオに会いにくるシーンなど実に盛り上がる。南方に向かう船の中での女流作家同士のやりとりやそこで出会う船会社の社員との短い不倫、林の見張り役の軍人たちの描写などもおもしろい。
当時の状況が実際にこうだったかわからないが、南方の占領地における軍人や在留邦人、従軍記者、借り出された小説家などの群像がこれほど細かに活写された小説は、なかなかないのではないか。特に現代においてそれを想像して書くのは相当の困難が伴うに違いない。ましてや林芙美子の幻の日記発見という体裁を取るのだから、相当の覚悟がいる。

桐野はあえて難しい道を自分に課しているのではないか。その迫力が伝わってくる小説だ。

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