森村泰昌の誇大妄想と沢木耕太郎の作りすぎと
東京都写真美術館で「森村泰昌 なにものかへのレクイエム」展を見た。かつてマネやゴッホの絵画を自らが変装した写真で再現していた森村氏は、もはや絵画を超えて歴史上の人物の物真似に関心を移している。
無料で見られる吹き抜けのロビーには、三島由紀夫の自衛隊での演説を自ら真似したビデオが大きく上映され、展示室にはアインシュタインやレーニン、ヒトラー、ゲバラ、毛沢東などが次々に並ぶ。あるいはピカソやフジタ、デュシャン、エイゼンシュテインなど芸術家たちも登場する。そして最後には硫黄島をめぐるちょっともの悲しいビデオ作品。
見ていると壮大な悪ふざけに見えてくる。いかにも大阪の芸人のギャグみたいで、ちょっとうんざりする。ちょうど沢木耕太郎氏の『テロルの決算』を読んだばかりだったので、浅沼稲次郎が山口二也に刺された事件を巡る数枚の作品には不快な気がした。山口は今でも右翼から崇拝されているというから、右翼からの嫌がらせはないのかと思った。三島のパロディも大映しだし。三島の演説映像の近くにいた警備員にまじめな顔で「こんなものを上映して、右翼から何か来ませんか」と聞いてみた。すると「全くありません。だけど年配の方からは歴史を馬鹿にして不愉快な展覧会だ、という意見が時々ありますが」との返事。私の反応は「年配の方」に近いのかもしれない。
『テロルの決算』は実は今頃初めて読んだが、おもしろいけどちょっと劇的に作りすぎな気がした。山口の部分は生き方自体が劇的だからまだいいが、浅沼の部分は無理やりドラマチックにしている感じがする。かつて『檀』など彼のいくつかの作品にひどく感動した記憶があるが、今読むとダメだろうか。
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