この四半世紀の変貌
吉見俊也氏の『ポスト戦後社会』を読んだ。これは岩波新書の「シリーズ日本現代史」の9巻目で、各巻を一人の筆者が担当している。吉見氏は万博についての本など、従来の社会学に収まらない文化論的な視点でおもしろい本を何冊も描いているが、日本の現代史を描いたこの本にも興味深い視点がいくつもある。わずか四半世紀で、日本はこんなに変貌したのかとあらためて驚くばかりだ。
いくつかを引用、ないしはまとめる。
「一九七二年の連合赤軍事件は、六〇年代までの『思想による自己実現』の時代が、七〇年代後半の『消費による自己実現』の時代へ転位してゆくまさしく中間で起きた出来事である」
ベ平連の「徹底したシングル・イシュー主義」は、「環境運動や薬害訴訟、人権擁護、フェミニズムなど多くの分野のネットワーク型の市民運動に広がってゆく」
「この二〇年間の田中派支配の政局の初期に生じた疑獄事件がロッキード事件であるとするならば、その末期に生じたのはリクルート事件である。しかし、この二つの事件は、さまざまな意味で対照的であった。……リクルート事件は、ロッキードの事件の末裔というよりも、後のライブドアや村上ファンドをめぐる事件につながってゆく」
「愛し合っている男女なら結婚とは関係なく性的な交わりがあってもいいと考える人々が、一九七三年の十九%から八八年には三一%、九八年には四三%と、八〇年代後半ごろから急増している」
「ロードサイドビジネスは、全国各地に拡大した郊外型ショッピング・センターとともに、日本の地方都市や農村の風景を決定的に変容させた」
「一九七四年の時点で全国の小中学校で約一万人だった不登校児童の数は、九〇年には約五万人、二〇〇一年には一四万人と激増している。……今日ひきこもりは一説には全国で百万人とも言われ、……」
環境庁長官になった石原慎太郎は、三木武夫が実現させた先進的な環境政策を、逆方向に覆した。
「連合赤軍事件が『理想の時代』の極限を示していたのなら、オウム真理教事件は、七〇年代以降の『虚構の時代』の極限を示している。
「生活や意識の面で一九八〇年代末以降に生じた大きな変化は、いわゆる『中流』の崩壊である」
自分が生きてきた時代が、とんでもないくらい変貌の時代だったのだと思う。この四半世紀でそれまでの常識がほとんど変わったことを認識した方がいいかもしれない。
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