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2010年5月29日 (土)

『山のあなた 徳一の恋』と『按摩と女』

2年前に公開された石井克人監督の『山のあなた 徳一の恋』をようやくDVDで見た。かつて新聞記者の友人が絶賛していたのを覚えている。清水宏の『按摩と女』(1938)のセリフをそのまま使っていることも、話題になっていた。

実は清水宏の方を先に見たのだが、その後に『山のあなた』を見ると、よくここまで似た作品ができたことに驚く。セリフだけではない。当時ロケをした旅館街とほぼ同じようなセットを作り、同じようなカットで撮っている。女が湖のほとりで傘を指した3つの連続ショットや、按摩と女が逃げる時の裸足を映す3つの連続ショットもそのままだ。
高峰三枝子がマイコに、佐分利信が堤真一になったが、雰囲気が実に似通っている。按摩を演じる草彅剛も加瀬亮も当時の役者にかなり似ている。リメイクでもここまで瓜二つにしたのは、空前絶後ではないか。
それでいて『山のあなた』は、今の映画としても十分にわかりやすく、楽しめる。相当の演出力だ。

しかし清水作品と比べると、何かが足りない。登場人物たちの気持ちが、清水版ではもっと隠されている。何を考えているかわからないようで、強い情念を秘めていてそれが後半の馬車が出て行く2つのシーンなどにどっと現れる。石井作品は、少年も含めて登場人物の恋心が露わに出すぎている。加えて清水版はどう話が進むか分からないような即興性や不安定さに満ちている。リメイクだから当然かもしれないが、石井版には良くも悪しくも安定感があり、最初からすべてがユーモアじたてになっている。
清水版は64分なのに、石井版は94分。この長さの差が、石井版のどこか説明くさい感じになったのかもしれない。とまれ、石井克人という監督からは目が離せないと思った。

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