猪熊弦一郎の軽やかなタッチ
猪熊弦一郎という名前を聞いたのは、いつのことだろうか。今も使われている三越の赤い包装紙や赤と青の紙袋のデザイナーとしてだった。その頃から名前はいつも気になっていたが、今回初台の東京オペラシティアートギャラリーの個展で初めてまとめて見て、その軽やかなタッチに心を奪われた。
前衛絵画とイラストの中間と言えばいいのか、マティスやセザンヌやピカソが描いたイラストのような絵が並んでいる。鮮やかな色使いや輪郭による女性の顔の表現は、最近亡くなったデザイナーの早川良雄氏に近いかもしれない。
略歴を見ると、1904年に生まれて東京美術学校を卒業した後、38年には渡仏している。マティスと一緒に写った写真もあった。1955年からはニューヨークに20年間も住んでいる。印象派以降の西洋美術を自分のものにしながらも、現代美術家として力むことなく、軽やかな絵やイラストを描き残している。具象から抽象へ、そして再び具象へ。1989年に描かれた、80人の顔を並べた大きな絵の楽しさといったら。
三越の包装紙は知っていたが、戦後多くの本の装丁をしたり、週刊新潮の表紙イラストを40年も描いていたとは全く知らなかった。椅子やテーブルのデザインもある。戦後の現代美術の文脈ではあまり重要視されない画家だが、実は社会的には大きな存在だったと言えよう。
四国に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館がある。2年前に四国に行った時に行きそこねたが、彼が自分の好きなように作った美術館だと年譜に書かれていて、是非とも行きたくなった。
彼の言葉が壁に書かれていたり、大きなビニールに書いて垂れていたりして、作品の軽やかさにふさわしい展示デザインだ。7月4日まで。
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