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2010年5月23日 (日)

美術館という現代の化物

8月公開のドキュメンタリー映画『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』を見た。昨秋の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたが見損ねた作品で、一部での好評は聞いていた。見てみると、ドゥパルドンの『モダン・ライフ』のような強い個性や手法の新しさはないが、淡々としていながらもなかなか見応えがあった。

物語は、アムステルダムの国立美術館の全面改装をめぐって、2004年から2008年までの約4年間にわたって、美術館と建築家と地域住民が喧々諤々と議論を重ねる話だ。
そもそも2008年末に完成するはずの改装だった。コンペによってスペインの2人組の建築家が選ばれて、プランが公表されたあたりから、住民の反対が始まる。とりわけ強硬なのはサイクリスト教会だ。あるいは地区代表の人々。何度も会議が行われるたびにさまざまな反対意見が出て、建築家は何度もデザイン変更を余儀なくされる。「自分たちはコンペで選ばれたのに」「だんだん情熱が失せてくる」。
その一方で、淡々と展示プランや修復、作品購入を進める学芸員たち。ようやく妥協点が見つかって工事が開始されるかと思うと、入札金額が高すぎて振り出しに戻る。工事が始まったのは2008年末で、完成は2014年末だ。映画は工事が開始されるところで終わる。

まるで潰れそうな大企業の内輪話を見ているようだが、これは国家プロジェクトである。国の一番重要な美術館の建築にサイクリスト協会が意見を言うことができるのは、オランダくらいだろう。どこの国で住民の声によって4年間も建築開始が遅れるだろうか。日本の国立新美術館の黒川記章の装飾過多の建築に、誰が意見を言うことができただろうか。ルーヴル美術館の間の抜けたピラミッドの入り口だって、誰も文句を言っていないはずだ。
それだけ、この美術館が市民に愛されているということだろう。美術館を取り巻く人々の多さにも驚く。館長、学芸員、修復家、展示会社、建築家、建設会社、そして多くの住民たち。それぞれの思いと欲望がうずまく過程が、この映画では撮られている。美術館とは現代の化物であるとつくづく思う。

個人的には美術館の裏方で働く人々をたくさん知っているだけに、見ていて他人事ではなかった。日本の美術館関係者が見たら、さぞ身につまされることだろう。
かつてこの美術館に行ったことがあるが、市の中心部にあって、多くの人が自転車で行き来していたのは記憶にある。

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