『グリーン・ゾーン』と『<中東>の考え方』
最近は、イラク戦争後のアメリカの苦悩を描く映画が増えた。ちょっと前だとデ・パルマ監督の『リダクティッド』がそうだし、最近では『ハート・ロッカー』もそうだった。先日見た『グリーン・ゾーン』も『ハート・ロッカー』に似て、ハリウッド的なサスペンス効果を最大限に使いながら、イラク戦争の意味を問うという「まじめ娯楽映画」だが、違いはイラク人の視点があることだ。
『グリーン・ゾーン』では、自分の信念に基づいてアメリカ軍に情報を提供するイラク人フレディの存在が、大きな役割を果たす。最後に彼がアメリカ兵役のマット・デイモンに対して、「この国の将来は、あなたたちに決めさせない」と言い放つ時、国防総省とCIAの情報戦や、大量破壊兵器があったかどうかはどうでもよくなってしまう。あるいはマット・デイモンが、イラク政府高官のアル・ラウィを追い詰めて真実を聞き出そうとした時に、「アメリカ人高官は約束を裏切った」と言われてしまい、一挙にアメリカ側全体が悪者になってしまう。
ポール・グリーングラスという監督には、『ボーン』シリーズでも『ユナイティッド93』でもそうだが、いつもアメリカを相対化して見る視点があるようだ。
「中東からの視点」に関しては、偶然読んでいた酒井啓子氏の『<中東>の考え方』(講談社現代新書」がおもしろかった。これは「中東の戦後史を、彼らの側から見たら」という本で、目からうろこの指摘が多い。「中東」という言い方自体が、ヨーロッパを中心にインドを東として、その手前を「中東」、その向こうを「極東」と呼んだものだという。中東の人々は「中東」と言われるのを好まないらしい。我々だって、「極東」と言われると何か不快だ。
以下はこの本のプロローグの引用。
「ヨーロッパのアジア進出の過程で、植民地主義の関心を集めた中東。石油の発見で外国企業が殺到した中東。ヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人たちが、最期のよりどころとして居場所を見つけた中東。冷戦の前線として、ソ連とアメリカが覇を競った中東。世界が西へ東へ動く時に、全部ここを通過していった――。……
大国がさまざまな「大きな政治」を展開してゆくなかで、中東で起きたことは常にそのツケであった」
中東の問題のエッセンスが、実にコンパクトにまとまった本だ。今後中東のことがわからなくなったら、何度でも読み返したい。
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