« 「文化的多様性」のいろいろ | トップページ | ドイツ人の演説好き »

2010年5月25日 (火)

『グリーン・ゾーン』と『<中東>の考え方』

最近は、イラク戦争後のアメリカの苦悩を描く映画が増えた。ちょっと前だとデ・パルマ監督の『リダクティッド』がそうだし、最近では『ハート・ロッカー』もそうだった。先日見た『グリーン・ゾーン』も『ハート・ロッカー』に似て、ハリウッド的なサスペンス効果を最大限に使いながら、イラク戦争の意味を問うという「まじめ娯楽映画」だが、違いはイラク人の視点があることだ。

『グリーン・ゾーン』では、自分の信念に基づいてアメリカ軍に情報を提供するイラク人フレディの存在が、大きな役割を果たす。最後に彼がアメリカ兵役のマット・デイモンに対して、「この国の将来は、あなたたちに決めさせない」と言い放つ時、国防総省とCIAの情報戦や、大量破壊兵器があったかどうかはどうでもよくなってしまう。あるいはマット・デイモンが、イラク政府高官のアル・ラウィを追い詰めて真実を聞き出そうとした時に、「アメリカ人高官は約束を裏切った」と言われてしまい、一挙にアメリカ側全体が悪者になってしまう。
ポール・グリーングラスという監督には、『ボーン』シリーズでも『ユナイティッド93』でもそうだが、いつもアメリカを相対化して見る視点があるようだ。

「中東からの視点」に関しては、偶然読んでいた酒井啓子氏の『<中東>の考え方』(講談社現代新書」がおもしろかった。これは「中東の戦後史を、彼らの側から見たら」という本で、目からうろこの指摘が多い。「中東」という言い方自体が、ヨーロッパを中心にインドを東として、その手前を「中東」、その向こうを「極東」と呼んだものだという。中東の人々は「中東」と言われるのを好まないらしい。我々だって、「極東」と言われると何か不快だ。

以下はこの本のプロローグの引用。
「ヨーロッパのアジア進出の過程で、植民地主義の関心を集めた中東。石油の発見で外国企業が殺到した中東。ヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人たちが、最期のよりどころとして居場所を見つけた中東。冷戦の前線として、ソ連とアメリカが覇を競った中東。世界が西へ東へ動く時に、全部ここを通過していった――。……
大国がさまざまな「大きな政治」を展開してゆくなかで、中東で起きたことは常にそのツケであった」

中東の問題のエッセンスが、実にコンパクトにまとまった本だ。今後中東のことがわからなくなったら、何度でも読み返したい。

|

« 「文化的多様性」のいろいろ | トップページ | ドイツ人の演説好き »

映画」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/48452643

この記事へのトラックバック一覧です: 『グリーン・ゾーン』と『<中東>の考え方』:

» 映画:グリーン・ゾーン Green Zone スニークプレビューで全米公開前に観た、最新アクション! [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
日本では珍しいことだと思うが、直前まで「何をみるかわからない」試写会(スニークプレビュー)に参加してきた! う〜んスリル満点。。。 上映前に明かされた映画タイトルは、グリーン・ゾーン Green Zone。 まだアメリカでも3月12日公開、日本では 5月公開という、バリバリにニューな映画(やったあ!) 傑作「ボーン」3連シリーズの後半2作の監督 ポール・グリーングラスが、主演のマット・デイモンとともに取り組んだ最新アクション。 今回の舞台は、なんと!イラク。 とはいえ、「戦争映画」色はそれほ... [続きを読む]

受信: 2010年5月26日 (水) 20時20分

» 映画「グリーン・ゾーン」見つからない、大量破壊兵器が見つからない [soramove]
「グリーン・ゾーン」★★★★ マット・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーソン出演 ポール・グリーングラス監督、114分、2010年5月14日公開、2009,アメリカ,東宝東和 (原題:GREEN ZONE )                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「イラク戦争のさなか、 アメリカ軍が駐屯するグリーンゾーンが存在し、 ロイ・ミラー(マット・デイモン)は、 大量破壊兵器の所在... [続きを読む]

受信: 2010年5月28日 (金) 22時02分

« 「文化的多様性」のいろいろ | トップページ | ドイツ人の演説好き »