檀一雄の旅と食
雑誌『BRUTAS』の食特集を読んでいるうちに檀一雄が読みたくなり、『美味放浪記』を買った。表紙に日本地図があって、各都市の短いコメントがついている。例えば高知には「黒潮の香を豪快に味わう皿鉢料理」という具合で、何ともそそられる。読んでみると、旅をしながら各地の食を楽しむ檀の子供のような姿が浮かび上がってきて、心地良かった。
とにかく出会う人々がおかしい。ソ連でロシア人に「日本人は稚魚を食べるがあれはよくない」と説教されたり、スペインからの夜行列車でスイスに生ハムを売りに行くスペイン人の業者に会い、一緒に生ハムを食べながらウィスキーを飲んで騒ぎ、翌朝に荷物が盗まれていたり。
太宰治とは、新宿を歩きながら、突然彼が夜店の蟹を買ってそのまま手づかみで食べだしたのに驚く。「毛蟹だよ、檀君、食えよ」。
「飛行機に乗らない限り、東京から九州まで直行ができにくい」。なぜなら列車だと各地で降りてうまいものを食べるからだ。食い意地が張っているというか、ここでは何を食べると決めたら止まらない。「秋田に着いたら、ハタハタのショッツルとはじめに思いこんだ以上、草の根を掻き分けたって、ハタハタのショッツルにありつきたい」。「香りの高い、八丁味噌の味噌汁の中に、香りと歯ざわりの、松露の実を浮かべて喰べるのは、私の永年にわたる妄執であった」。食の妄執、オブセッションである。
とにかく市場が好きだ。「どこかの国へ辿り着いた瞬間、その国の市場に積み上げられているくさぐさの肉の類、魚介の類、野菜の類をそれとなくたしかめておかないと、何事もはじまらないような、おかしな不安が感じられるのである」。
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