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2010年6月 9日 (水)

『性的なことば』のばかばかしい学問

時々、ばかばかしい本が読みたくなる。『性的なことば』という厚めの新書を買ったのは、立ち見で読んでいたら最初のあたりに「『おこめ券』がドギマギさせたのが関西人だけだったとすると、『やまりん』はより広範囲の人々の心に波風をたてた言葉である」というくだりがあったからだ。このばかばかしさは、買わずにはいられない。

買ってみると、これは同じく井上章一氏が中心になった『性の用語集』の続編だとわかった。そちらは読んでいないけれど、この続編だけ読んでも十分におもしろい。要するに学者たちが性的な言葉の由来や変遷をまじめに解説するというもので、かなりおかしい。

「愛人」という言葉は、かつては「情婦」や「情夫」と呼ばれていた。かつては「愛人」は左翼学生が恋人のことを呼んでいたという。「愛人」が普及したのは、1970年代以降の新聞の影響らしい。
「不倫」はかつては「不貞」や「不義」だったのが「浮気」になり、三島由紀夫の『美徳のよろめき』の影響もあって、「よろめき」と呼ばれたこともあった。性的な自由さを表した「不倫」が明らかに既婚者の恋愛になったのは、『金曜日の妻たちへ』かららしい。国語をテレビドラマが変えたわけだ。
「やりまん」というのは、かつては「させ子」と呼ばれていた。受動的な「させ子」に比べて、女性の主体性の確立に伴った言葉だという。
「SM」というのは、海外ではサド・マゾ以外を意味する場合が多い。ボクシングのスーパー・ミドル級とか、携帯のショート・メッセージとか。この項の解説を書いているのは三橋順子という1955年生まれの学者だが、かなりの実践派だ。「私のささやかな経験でも、上手な縄師に緊縛されると、肩凝りが(一時的に)軽減する。心身が宙に飛んでしまいそうなハードなプレイの後、肌に付いた縄目をS役の男性に温かなお絞りでほぐしてもらいながら飲む缶ビールは、本当においしい」。
三橋氏は「数の子天井・みみず千匹」の解説でも「初会の男との交接の後、『ごくろうさん、あんた、かなりの名器やで。フィット感が抜群や』と言われた。自分ではまったくわからない話だが、ほめられて悪い気はしない」と書いている。

そのほかトルコ風呂の起源だの、モロッコが性転換で有名なのはカルーセル麻紀の影響のせいだの、ズボンを「パンツ」と呼ぶことへの抵抗など、ばかばしいしい話が続く。こういう研究ができるのは、井上氏をはじめとして関西の学者ならではのような気がする。「ええもんやな」などの関西弁には、ヌメッとしたスケベな感じがするのは私だけだろうか。

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