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2010年6月21日 (月)

宮部みゆきが描く高校生の日常

宮部みゆき氏の書き下ろし最新作『小暮写眞館』を読んだ。実を言うと土曜日の朝刊の全面広告を見ていたら無性に読みたくなって、近所の本屋で買ってきた。宮部氏の本は『理由』とか『模倣犯』くらいしか読んでいないので、サスペンスの女王だと思っていた。

ところが読み始めると何も起こらない平和な高校生の日常が始まったので、間違えて恩田陸か奥田英朗を買ってきたのかと思って、何度も背文字を見返したくらいだ。読み進めると、平凡な日常から小さな事件が生まれ、それが登場人物たちの心を大きく揺り動かす仕掛けが施されていることが分かってくる。
その仕掛けも最初は小さなものだが、次第に大きくなり、それらが折り重なって最後には主要登場人物の大事件がいくつも起きてくる。その見事な構築はやはりサスペンスの女王だ。

物語は、高校1年生花菱英一が、元小暮写眞館だった一軒家に引っ越してくるところから始まる。その写真館でかつて撮られた一枚の心霊写真が彼のもとに届けられる。それを解明するのが英一だったり、弟の光だったり、友人のテンコだったりと、少年探偵団のような出だしだ。おかしな写真は次々に出てきて、そこから結婚に失敗した女や、登校拒否の少年などいくつも物語が広がってゆく。最後は花菱家を揺るがす大問題と英一の恋に至る。

タッチは軽妙で、口語体のくだけた文体だ。時おり哲学的な一節がはさみ込まれる。「駅前の景色は、どこでも似たり寄ったりだ。……それはこの国がそういう国だからだ、豊かな国はみんなそうなんだ」「生きている者には、ときどき、死者が必要になることがあるんだ」「何が人間をヘコませるかって、他人の幸せほど効率的にヘコませてくれるものはない」。

700ページの厚い本だが、2日で読み終えた。次第に明らかになる家族間の愛憎が自分の問題として、ずしりと心に響いた。

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