『アウトレイジ』の爽快さ
ようやく北野武の『アウトレイジ』を見た。『その男、凶暴につき』に戻ったような、無意味な暴力と殺傷が続く映画だった。『ソナチネ』や『HANA-BI』に至る過程で暴力が沈黙と美に支配されて、それから後は抜け殻のような不思議なユーモアと様式の映画が続いた。最近の『監督・ばんざい』などを見て、もう昔の北野映画には戻れないのかと思っていたが、やすやすと暴力のみの最初の地点に戻ってきたことに驚いた。
そして今回の暴力は、日本の社会の縮図のような醜悪さに満ちている。ものを考えず、組織の命令に従い、犬死してゆく日本人たち。そのかげで暴利を貪る一部の人々。日本人の美徳のような従順と暴力の混交を、北野は冷ややかに描く。自らが演じるヤクザはその構造を見抜いていつも苦笑いしているが、最後に自首し、そのうえ刑務所で敵にやられる。
今回は北野組の常連役者が出ていないのも、新鮮だった。特に加瀬亮がすばらしい。彼がヤクザをできるとは思わなかった。
この映画は日本では受ける。海外では評価されない。明らかにそこまで計算して、この時期にこの映画をカンヌに持って行った北野武は極めて聡明だ。彼は「海外での栄光」という、多くの映画監督が陥る罠から距離を取ることを知っている。
次にどんな映画を作るのか、北野武はまだまだ楽しみだ。
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