夏が来れば、思い出す
7月の今頃になると、毎年思い出すことがある。前に勤めていた会社で異動を言い渡された時のことだ。まだ数年しかたっていない。私よりほんの少し年上の女性の上司に、「ちょっとお茶を飲もう」と誘われた。数年先の企画の交渉のために出掛けたパリ出張から帰って、2日後だったと思う。
その女は私と目を合わせずに、「得意の専門分野をより発揮してもらうための異動です」と言った。理由と期間を聞くと「私は知らない」と言う。あまりのショックに私は会社から出て、その周りを1時間ほど散歩した。あらゆる角度から会社の建物を眺めた。それはずいぶん醜いものに映った。
それから担当役員から私の携帯に電話があった。会ってみると「これは自分の前任者が全部決めて行ったことだから」というのみ。
異動日が来て新しい部署に行ってみると、担当する分野は自分の専門とは違っていた。そうでなくても新しい職場でいい年をして新人扱いを受けて悔しかったが、新しい仕事は思いのほかカンタンで、やってみると楽しかった。それでもしばらくして、私は会社を辞めた。
会社は無情だ。結局、ゴマすりばかりが闊歩する。だから公開中の映画『必死剣鳥刺し』の冒頭で、豊川悦司が「御免」と言って、みんなを困らせていた側室を一突きで殺すシーンは、サラリーマンにきっと受けると思う。そうやって殺したい奴が会社にはいる。朝日の記者が映画評でその場面を過剰に評価していたのも、そういう理由だったりして。
ちなみに女性の上司も役員も今も出世を続けている。「前任者」は取締役にまでなって、最近退任した。今でも「御免」とやりたい。
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コメント
A社からN大に転身されたのを知ったときは本当にショックでした。日本の映画環境がどれだけ後退したかしれません。
実際、今度の「ポルトガル映画祭2010」(あのラインナップはイマイチ)にA社が関わっていないのも解せないと感じており、「御免」とやりたい映画ファンは多いのではないでしょうか。
投稿: 鈍繁 | 2010年7月15日 (木) 21時47分