ドキュメンタリー映画の醍醐味:『ハーブ&ドロシー』
ドキュメンタリー映画の場合、撮られる対象がおもしろいと、それだけでいい映画になる。とりわけ非凡で魅力的な人間にカメラが当てられた時は最高だ。数年前に『ミリキタニの猫』を見た時につくづくそう思ったが、久しぶりにそうしたドキュメンタリーを見た。11月に公開される『ハーブ&ドロシー』で、偶然だが『ミリキタニの猫』と同じくニューヨークを舞台にしたアートの話で、制作に日本人が係わっている点も共通している。
『ハーブ&ドロシー』は、郵便局員(ハーブ)と図書館秘書(ドロシー)の夫婦が、いつの間にか2000点を超す現代アートを収集していたという話だ。彼らは最初は二人とも絵を描いていたが、いつの間にか現代アートを収集していた。
彼らのやり方は簡単で、展覧会を見に行き、気にいった作家がいれば訪ねて作品を買う。条件は安いこと、二人のアパートに入ること、それ以前に地下鉄で持ち帰れることだ。
結果として彼らは値が張る抽象表現主義やポップ・アートではなく、一般にはちょっとわかりにくいミニマル・アートやコンセプチュアル・アートを集める。クリスト夫妻、ドナルド・ジャッド、ソル・ルウィット、河原温、リチャード・タトル、ジョセフ・コスースなど、今となっては巨匠ばかり。
彼らはそれを、1LDKの狭いアパートの壁やトイレや台所に飾る。決して売らない。ドロシーの兄は「数点売ればすぐに僕らみたいなもっと広い家に住めるのに」と嘆く。
結局夫婦は、ワシントンのナショナル・ギャラリーにすべてを寄付することにする。自分たちは二人とも国やニューヨーク市の公務員だったし、入場無料の公的な美術館に入るのが筋だと思う、との理由だ。二人が有名になるとナショナル・ギャラリーに作品が入れたくて、どんどん寄贈されてくるが、すべて送り返す。何とシンプル。
特に後半、好きなことを仲良く夫婦で淡々と続けた人生の美しさが漂ってくる。クリストの猫を預かったり、アーチストたちと仲良くなるシーンもいい。彼らに「フレンド・コレクター」と言われる。既に亡くなったドナルド・ジャッドやソル・ルウィットの過去の映像も楽しかった。もちろん河原温はなかったけれど。
最後に妻は白いマックブックを買う。何と微笑ましい。
私はかつて美術関係の仕事に長く携わっていたが、それでもこの映画は目から鱗だった。こういう美術へのアプローチもありか、と。ニューヨークのアート・シーンがたっぷり見られるので、現代アートが好きな人はぜひ。そうでなくてもシンプルな生き方を考えている人には、最高の実例がここにある。
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