「新聞の映画評」評:『必死剣鳥刺し』
「鳥刺し」というと、まるで鳥の刺身というか、ソバ屋で食べる「鳥わさ」みたいな感じで見る気がおきなかったが、金曜の夕刊で各紙ベタボメだったので驚いた。朝日の石飛記者、読売の恩田記者はともかく、日経で中条省平氏が絶賛していたのを見るに及んで、慌てて丸の内Toeiに見に行った。
結論から言うと、おもしろかったがそこまでのことはなかったという感じ。中条氏は「端正な品格を備える秀作」と書き、読売の恩田記者は「平山監督の演出も端正」、朝日の石飛記者は「一切の装飾を排し、禁欲的な演出に徹する」と褒めているが、私にはむしろ「教科書的なくらい的確な演出」に見えた。豊川悦司が姪と寝る場面に月に陰る雲を写したり、何度も飛ぶ鳥のシーンを写したり、それらしすぎる音楽をつけたり。室内も風景もどのカットも的確過ぎて驚きがなく、中盤いささか退屈した。
もちろん、平山監督がこれだけハイレベルの時代劇を撮ったのは素晴らしいことだとと思う。山田洋次作品のように妙な笑えないユーモアや泣かせがなく、藤沢小説の映画化としてずっと良かった。でも豊川の殺陣は、どこか型をなぞっている感じで、真田広之のような自由で優雅な剣さばきではない。
石飛記者が指摘しているように、出だしの静かな殺人はうまい。最後の立ち回りは、恩田記者が書いているように、「剣客の最後の命の瞬きを全身で演じる豊川の何とすさまじく、すばらしいことか」というのも理解できる。しかしその間の展開がどこか説明的だ。そのうえ残念なことに、閉門中の一年を含む三年間の時間は、全く豊川の背中や顔には見えてこない。姪が一年ぶりに流す豊川の背中が、何とつるつるしていることか。
ちなみに中条氏は終りに三隅研次監督の『剣鬼』に触れていたが、それを言うなら最初にクレジットが出ている時に「藩のため」と側室を殺す『斬る』の方がずっと似ている。ただどちらにしても、平山監督には三隅監督のようなバロックな演出は皆無だ。
別件だが、同じ日の読売新聞で『ハロルドとモード』と『バード★シット』を紹介するのに、「アメリカン・ニューシネマ再び」はないだろう。読者が『俺たちに明日はない』や『卒業』のような映画を期待して見に行ったら、全く違ったということになりかねない。この2本はアメリカン・ニューシネマの中では相当の異端というか、マイナーなものなので。
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