真夏に読むオルテガ
最近、四半世紀ぶり(つまり学生時代以来)に映画を見たり本を読んだりすることが多いが、オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』もそうだ。文庫に入っているのを見つけて読んだが、これが現代のポピュリズム状況を言い当てていておもしろい。
オルテガは今世紀初頭のスペインの哲学者だが、ちょうどドイツのベンヤミンがそうであるように、20世紀が始まって新しい文明がどういうものかを見事に言い当てた人だ。『大衆の反逆』は1930年に発表された本だが、もともとは新聞に連載されたものだけに、わかりやすい。
言いたいことは簡単で、かつては少数の限られた者が文明を享受し、世の中を支配したが、今では無知な大衆があらゆるところであらゆる野蛮なことを始めてしまった、これは困るという説だ。「都市は人で満ち、家々は借家人で満ちている。ホテルは泊り客で、喫茶店はお客で、道路は歩行者で満ちている」という。今では当たり前な状況が、よほど珍しかったようだ。
大衆は「慢心しきったお坊ちゃん」であり、「その世界にあり余るほど豊かな手段のみを見て、その背後にある苦悩は見ないのである」。これなどは現代の日本の若者に当てはまりそうだ。そうして大衆が行動するときは、暴力に頼る。そこに国家主義が生まれ、「大衆は、国家という匿名の機械を通じ、またそれを手段として自ら行動するのである」。オルテガはここでイタリアのムッソリーニを批判する。
後半でおもしろいのは、アメリカの暴力に対抗するには、ヨーロッパ合衆国を結成する事しかないのではないか、と提案するところだ。欧州統合を1930年に唱えた人がいたのには驚いた。
こんな本が95年以来、15刷を重ねていることにもびっくりした。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 辻仁成からレーモン・オリヴィエへ(2026.06.17)
- 金子修介『無能助監督日記』を読む(2026.06.05)
- なぜ「映画史」ではなく「映画誌」か(2026.05.26)
- 『爆弾犯の娘』を読む(2026.05.20)
- 『近現代歌集』とは(2026.05.12)


コメント
僕は今、エルンスト・ロベルト・クルティウスについて勉強してるんですが、オルテガはクルティウスの友人だったので調べたりしてます。
オルテガのエリート主義や反アメリカを、クルティウスは共有していました。
欧州統合は、20世紀前半なら、オルテガ以外にも、丸谷才一の嫌いなロマン・ロランやシュテファン・ツヴァイクも主張していましたよ。
ロランの『ジャン・クリストフ』は、欧州統合を描くという意味では、上手くできている作品なんです。
投稿: マサユキ | 2010年8月18日 (水) 04時02分