« 楽天やユニクロの英語公用化を笑う | トップページ | 女性映画が好き:その(2) »

2010年8月27日 (金)

『魂の流木』にはまる

この年になると自分が「読みたい」本がほぼわかる。書店で見たり、書評を読んだりするとピンときて、「ハズレ」はほとんどなくなったが、マイケル・S・コヤマの自伝的小説『魂の流木』は大当たりだった。読売新聞の書評を見てアマゾンで買ったが、届いた日のうちに読んでしまうくらいはまった。

小山文治は日本人の父とタイ人の母の間に戦前のタイで生まれる。母親は亡くなり父親と日本に帰るが、父はスパイ容疑で処刑される。それから始まる文治の波乱の人生。戦後孤児院を出て、神戸の闇市で商売しているうちに高校に潜り込み、東大に合格する。奨学金を得てアメリカの大学に留学するが、いつのまにか諜報機関にスカウトされ、アメリカ国籍を取得して、欧州での諜報活動を行う。その時にマイケル・コヤマとなる。3年後アメリカの大学に戻って経済学の教授になるが、その後も諜報活動は時々続ける。

孤児院とか闇市とか、諜報活動とか、血沸き肉踊る場面は詳細に描き、自分が結婚したり教授になったりという順調な場面は省略してさらりと短くすませる。もっと長いものが書けただろうに。
そこにあるのは運命を選び取ってゆく人間の強さと、故郷を持たない人間の寂しさだ。アメリカ政府から諜報将校になる代わりに国籍を提供されると、迷うことなくアメリカ人になる。
もう一つは、あらゆる人材に目を光らせ、タイ語と日本語のできる優秀な留学生を見つけると、国籍まで変えさせて諜報活動に使おうとするアメリカという国の恐ろしさだ。実際、彼は1973年の日本企業の対米ダンピング輸出問題で、公正取引委員会の嘘を見破って大きな役割を果たしている。
読み終わって気持ちが落ち着くのは、最後に芦屋の高校の同窓会に出席する場面があるからだ。何となくそこで日本との和解が感じられる。

自分もそれなりに紆余曲折の人生を送ってきたつもりだったが、この人に比べたら何でもない、と思った。もちろん時代が違うが、この本は今後悩む時に勇気を与えてくれそうな気がする。

|

« 楽天やユニクロの英語公用化を笑う | トップページ | 女性映画が好き:その(2) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

紆余曲折の人生を描いた文学作品として、まっ先に思い浮かぶのは、
スペインの劇作家カルデロンのLa vida es sueno.でしょうな。囚人から王になったりするもん。

投稿: マサユキ | 2010年8月27日 (金) 07時58分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/49263662

この記事へのトラックバック一覧です: 『魂の流木』にはまる:

« 楽天やユニクロの英語公用化を笑う | トップページ | 女性映画が好き:その(2) »