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2010年9月 7日 (火)

ベネチア国際映画祭:その(4)

ベネチアの現ディレクター、マルコ・ミュラーの戦略は、できるだけ幅の広い選択をすることだ。ツイ・ハークや三池崇史の娯楽作を入れるかと思うと、ほとんど個人映画に近い作品も入れる。今日はそんな自主製作のような映画を2本見た。王兵(ワン・ビン)の『溝』The Ditchとヴィンセント・ギャロの『水に書かれた約束』The Promises Written in the Water。

『溝』は1960年のゴビ砂漠が舞台で、反革命分子として再教育のために溝を掘らされる人々の日常が描かれる。住むのは穴の中で食べ物は極めて少なく、人はどんどん死んでいくが、毛布に包んで近くに埋めるだけだ。
ハイライトは、死んだ男の妻が、上海から出かけてくるところだ。所長がその女を非難するところがおかしい。何とか夫の死体を探して見つけると、軽く土をかけただけで放置されていた。夫の同僚とそれを取り出し、火葬して骨を持ち帰る妻の力強い姿。
最初はデジタルカメラの軽い感じに少し違和感があったが、だんだんそれがリアルなものとして迫ってくる。何もない砂漠の裸形の空間と極限状態の人間が対峙し、ぐいぐいと迫ってくる。これは「サプライズ・フィルム」だったが、ジャ・ジャンクーの時のように賞を取るかもしれない。

『水に書かれた約束』は、逆に監督本人を主人公に極めて私的な世界を白黒で描く。葬儀のバイトをし、若い美人の女性と知り合う過程を、淡々と長いショットで見せる。初期のジャームッシュを思わせる映像で、日常の不条理な世界がかい間見える。
あまりに自分中心な世界だけに、好きになれない人もいると思うが、光と影の戯れを繊細に追った白黒の映像の美しさは一見の価値がある。

さてこの2本は日本で公開されるだろうか。『溝』は、かつて6時間を超すドキュメンタリー『鉄西区』で山形ドキュメンタリー映画祭のグランプリを取った監督の新作だけに、どこかで上映はされるだろう。もちろん2本ともこの映画祭で何か賞を取れば、世界公開への大きな原動力になる。映画祭はそのような時にこそ、映画にとって役に立つ。

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