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2010年9月11日 (土)

パリで見るカンヌ受賞作

ベネチアを途中で抜けて、パリに移動した。9月のパリは新学期で、それにあわせて期待の新作が一斉に登場する。今年のカンヌに出た作品でも大作はカンヌ直後に公開するが、アート系で賞を取った映画は9月が多い。そのうちパルム・ドールの『ブンミおじさん』とグランプリの『人々と神々と』を見た。

アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画は昔からほめ過ぎと思っていたが、今度の『ブンミおじさん』でも基本的に印象は変わらなかった。今回はブンミおじさんが死ぬ前に既に死んだ妻や息子が現れるという仏教的なもので、森林の風景や虫や水の音を含めて、どこか西洋向けのアジア的汎神論という気がしてならない。
もちろんロングショットを中心にした映像は美しいし、自然の音に加工を加えた音響も心に沁みる。何より、死んだ妻のファイがふっとテーブルに座っているシーンはどきっとするし、ゴリラになった息子の出現ももの悲しい。車に乗って着飾った女が川に入って少しずつ服を脱ぎ、最後は後ろから魚に犯されるシーンも、全く違和感がない。この監督の手にかかるとさもありなんという感じになってしまう。最後は僧になった甥が戻ってきて、シャワーを浴びてTシャツを着てみんなで食べに行くという妙なシーンだ。同じアジア人の私にも、一部人間関係がわからなかった。

それに比べると、グザヴィエ・ボーヴォワの『人々と神々と』は、普通の意味で傑作だ。アルジェリアの小さな村で、テロに襲われるフランス人の修道僧たちを描いたものだが、何といっても修道僧たちの顔がいい。中心となるのは何とランベール・ウィルソンだが、いい感じに枯れている。
彼らがテロに屈して軍隊を導入するか、その場を捨てるかをえんえんと話し合い、讃美歌を歌うだけの映画なのに、その抑制された映像から緊張が伝わってくる。ハイライトは他の街から同僚が赤ワインを持って現れ、ラジカセでチャイコフスキーの「白鳥の湖」を聞きながらみんなで飲むシーンだ。カメラは部屋をめぐり、そしてそれぞれのアップを写す。それぞれの顔の神々しさに、胸が締め付けられた。そこにテロの兵士たちが到着し、最後は殺されるわけだが、映像はそれを見せない。ナレーションで遺書が読まれ、無人の修道院をカメラはめぐる。
ヌーヴェルヴァーグを継承する、無駄を省いた抑制された美学がここにある。

驚いたのは『ブンミおじさん』はパリ市内だけで11館、『人々と神々と』に至ってはパリだけで約30館の公開だ。フランスにはアート系とメジャーの区別がないのだろうか。

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