ベネチア国際映画祭:その(5)
ベネチア映画祭には、当然だがイタリア映画がたくさん出品されている。ぜんぶで24本のコンペに4本入っているのを始めとして、全セクションをあわせると40本くらいある。コンペにマリオ・マルトーネやカルロ・マッツァクラーティ、招待作品にミケーレ・プラチドやマルコ・ベロッキオなど東京のイタリア映画祭でも有名な監督の新作が並んでいるのは壮観だ。
期待を裏切らなかったのは、マリオ・マルトーネの『私たちは信じていた』Noi credevamo。19世紀半ばのイタリア統一運動に身を捧げた3人の若者を描く、3時間24分の力作だ。独立運動はイタリアのみならずパリやロンドンでも準備されていたとは知らなかった。3人の若者のうち、サルヴァトーレはアンジェロと口論をしているうちに刺されてしまい、パリに出たアンジェロはナポレオン暗殺計画が直前で失敗してギロチンにかけられる。
最後まで生き残るのはルイジ・ロカーショ演じるドメニコ。年老いた彼が母親を訪ねたり、サルヴァトーレの息子と会うシーンがいい。
この時代を描いたものとしては『山猫』や『副王家の一族』などがあるが、この映画はあくまで一兵士の立場からその希望と挫折を描いている点で新しい。オペラのように多くの人物を自由に操るマルトーネの華麗な演出やレナート・ベルタのほれぼれするような映像と共に、イタリア映画史に残る傑作となるだろう。3時間半は全く長く感じない。日本の配給会社には、賞を取る前に今すぐ買うことをお勧めしする。
コンペでちょっとがっかちしたのが、カルロ・マッツァクラーティの『パッション』La passion。5年間映画を撮っていない売れない監督が、トスカーナの田舎で受難劇を演出するというストーリーだ。監督を演じるのはシルヴィオ・オルランドで、くどいくらいギャクを連発するので観客は大受けだったが、外国人にはあまりユーモアが伝わらない。この監督は、男性の滑稽なくらいの純愛を描く悲喜劇の名手だが、今回は喜劇ばかりが前面に出ていていま一つだった。主人公が心を寄せるポーランド女性との関係も盛り上がりに欠けている。
予想以上におもしろかったのが、招待作品のマルコ・ベロッキオの『姉妹』Sorelle Mai。自分の姉たちを中心に息子や娘を撮った家族ドキュメンタリーのようで、実は何人も俳優が混じって演技をしているフィクションだ。『ボローニャの夕暮れ』のアルバ・ロルヴァケルが、恋人にメールばかりしている小学校の先生として本物の先生たちに混じっている。1999年から10年間、毎年の夏の映画セミナーで撮った作品を編集したものらしく、娘のエレナの成長ぶりが感動的だ。小品だが、大きな力を持った映画だ。
同じく招待作品のミケーレ・プラチドの『ヴァランザスカ 悪の天使たち』は痛快な映画だ。実在の銀行強盗犯を描いたアクション映画だが、主演のキム・ロッシ・スチュワートが脚本作りから参加しただけあって、抜群にカッコいい。共演のフィリッポ・ティミも最高だ。事実に基づいているためかいささか物語が単調だが、血沸き肉踊る娯楽映画として2時間たっぷり楽しめる。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- ドキュメンタリーを追う:その(1)ワイズマンからランズマンへ(2024.12.10)
- 『オークション』を楽しむ(2024.12.04)
- 東京フィルメックスも少し:その(2)(2024.12.02)
- 映画ばかり見てきた:その(2)(2024.11.30)
- 深田晃司『日本映画の「働き方改革」』に考える(2024.11.26)
コメント