東京国際映画祭:その(1)グランプリ決定か
今日から始まる東京国際映画祭だが、この1週間の試写をいくつか見て、これがグランプリではという作品があった。ユーゴ出身のシニツァ・ドラギン監督の『一粒の麦』だ。東京国際は昔に比べたらだいぶセレクションが良くなった。しかしコンペには有名監督もスターもいなくて地味だ。そうした地味な作品群の中で、群を抜いているのがこの映画だ。
教会が出てくる出だしから、あっこれは映画だ、と思う。右からゆるゆると船が辿り着いて中年男が降りる。
この男は、チトーからもらった勲章をいまだに背広からはずさない。急に息子が死んだという知らせを受けて、親戚の若者とルーマニアに旅立つ。別の中年男と出会うが、この男は不思議な娼婦と共に、娘のいるコソボに向かう。
二人の奇想天外な旅が交互に映されるが、とてつもないユーモアや映像が次から次に出てくる。
息子を探す男がルーマニアで息子の遺体を盗まれて地の果てのような工場に行き、トラックに乗っていると石炭の底から黒人親子が出てきた時には、心底驚いた。娘を探す男はセルビアのアメリカ兵に連れられて娼婦宿に行き、自分の娘と出会う。橋から飛び降りた娘と、川を流されてきた息子が海を流れゆく教会で交差するラストは秀逸だ。そのホタルの美しさといったら。ちょっと物語が複雑すぎるが、相当才能のある監督に間違いない。
これをワールド・プレミア(世界初上映)で持ってきただけで、今年の東京国際は成功かもしれない。
そのほかに試写で見たコンペ作品はいま一つ。その中ではトルコ映画『ゼフィール』はちょっと魅力があった。トルコの山村で母の帰りを待つ少女の話だが、ちょっと抽象的な構成や色彩感覚はなかなか魅力的だ。
アルゼンチン映画『隠れた瞳』は、軍政時代のアルゼンチンを、高校を舞台に丁寧に撮られているが、何とも物語がつまらない。典型的な男性の妄想映画だ。
スペイン映画『小学校!』は、最近流行りの学校ドキュメンタリーだが、『パリ20区、僕らのクラス』や『ぼくの好きな先生』といった映画に比べて、格段にレベルが低い。小ざかしい編集や音楽にいらいらした。
ほかに「アジアの風」の韓国映画『妖術』を見たが、これはひどかった。今年から「アジアの風」も試写が始まったが、どうしてこんなものを試写に選んだのだろうか。
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