めっぽう楽しいケン・ローチの新作
ケン・ローチと言えば、イギリスの労働者階級の悲惨な生活をドキュメンタリー・タッチで描くことで知られる社会派監督だ。だから彼の映画を見に行く時は、ちょっと勇気がいる。ところが今度のケン・ローチは映画『エリックを探して』はめっぽう楽しい。チラシに「ケン・ローチ初のハッピー・エンドの名作」と書かれているのも肯ける。
出だしはやっぱり最低だ。郵便局に勤める主人公エリックは車の事故に会い、入院させられる。病院から帰ると、馬鹿な息子たちが家でやりたい放題に遊んでいる。主人公の情けない思いがひしひしと伝わってくる。
これまでのケン・ローチの映画と違うのは、それからだ。部屋に貼っていた憧れのサッカー選手、エリック・カントナの本物が突如自分の前に現れて、彼を励ます。こんなファンタジーは、ケン・ローチにはなかった。物語はエリックが憧れのカントナのアドバイスによって立ち直るまでを描く。最初は違和感があるが、二人のエリックの会話が絶妙で、次第にその気になってゆく。とりわけ、別れた最初の妻と再び近づいてゆくさまが感動的だ。そして自信を取り戻す主人公の表情の変化。
一番楽しいのは、二人の息子が騙されているヤクザのような連中に反撃を食らわすシーンだ。困ったエリックはどうしたら息子たちを救えるか、友人たちを集めてバーで相談するが、出てきた作戦は奇想天外。そしてエリックは友人たちとその作戦を実行に移し、成功する。素晴らしいのは、それが全く警察の力を借りない、友人たちの結集によるものだということだ。このあたりに、ケン・ローチらしい反逆精神が感じられて嬉しい。見終わって、飛び上がりたくなるような爽快感があった。
私はサッカーはあまり見ないが、主人公が思い出すカントナのさまざまなゴール・シーンは見ていて飽きない。この映画は去年のカンヌのコンペで話題になり、それでも配給が決まらないで東京国際「ワールド・シネマ」部門で上映され、今頃になってようやく配給された作品だ。こんなに楽しい映画なのに、どうしたことだろうか。サッカーファンも取り込めるだろうし。
お正月第一弾ロードショー、というのは12月半ば公開のことか。
2009年カンヌのお蔵入り作品は多いが、ラース・フォン・トリアーの『アンチ・クライスト』も公開が決まったみたいで、だんだん氷河期が終わりに近づいている気配を感じる。
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