『永遠の0(ゼロ)』と『ハナミズキ』
長い飛行機の中で2冊目に読んだのが、百田尚樹氏の『永遠の0』。最近の読書は、20世紀初頭から戦争、学生運動、バブル期などおおむね20世紀の歴史をめぐるものが多いが、これは戦時中の零戦の話だ。若い主人公が、自分の祖父について調べるうちに零戦に乗って死んだことがわかり、祖父を知る老人たちを訪ねるというストーリー。
小説仕立てではあるが、私より少し上の世代の作者がよくもここまで、というくらい調べつくしている。零戦がいかにアメリカ人にとって脅威であったか、そしていかに乗員にとって苛酷な環境だったかなど、手に取るようにわかる。今日我々は日本がこの戦争が負けたのは当たり前だったように思っているが、少なくともこの本を読むと、大本営のトップたちの判断ミスが多かったこともわかる。
海軍の将官クラスがいかに現場を知らなかったかという場面では、怒りが込み上げる。あるいは主人公が会う老人の一人が、新聞記者に「特攻隊は現代の自爆テロと同じ」と言われて怒るシーンも。この老人は日本を駄目にしたのは新聞だと言う。
「戦前、新聞は大日本本営発表をそのまま流し、毎日、戦意高揚記事を書きまくった。戦後、日本をアメリカのGHQが支配すると、今度はGHQの命じるままに、民主主義万歳の記事を書きまくり、戦前の日本がいかにおろかな国であったかを書きまくった。まるで国民全体が無知蒙昧だったという書き方だった」。
小説としては「2009年度最高におもしろい本大賞 文庫・文芸部門1位」というほどのことはないと思った。飽きずに読めるし、書いてある内容自体はおもしろいが、小説としてはいささか甘い作りだ。
その後、飛行機が着くまでにまだ時間があったので、今年話題の邦画『ハナミズキ』を見た。テレビ局の作る映画の典型のような純愛もので、丁寧に作られているだけにへきえきした。とりわけ零戦の後ではかったるい。
この映画は、1990年代なかばから最近までの話だが、ろくでもない時代のような気がしてきた。1993年に田中角栄が死んで細川内閣ができた。同じ年にJリーグが始まり、日本で初めてのシネコンができた。これから後の日本は、ひたすら劣化の一途をたどっているのではないか。
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