小説家アンヌ・ヴィアゼムスキー
ゴダールの『中国女』などに出ていたアンヌ・ヴィアゼムスキーが、小説を何冊か出版しているというニュースはだいぶ前から聞いていた。今度初めて翻訳で『少女』を読み、その繊細な感性と展開のうまさに舌をまいた。これは17歳のアンヌがロベール・ブレッソンの『バルタザールどこへゆく』に出演した時の一部始終を描いたもので、自伝的小説と言えるだろう。
ブレッソンがアンヌにすべての撮影に立ち会わせ、彼女を占有しようとする子供じみた動作のおかしさ。自分以外が彼女と話すことを好まず、二人になると手を握ったりする。
ある日ブレッソンは、自分の監督した『ジャンヌダルク裁判』を彼女に見せるために一緒に映画館に行く。彼女の手や体を触りながら、大声で映画を解説し始め、他の観客に怒鳴られるシーンなどは大笑いしてしまう。
アンヌはスタッフの一人に初めて恋をして、一夜を過ごす。その時のみずみずしい描写。
『バルタザールどこへ行く』に出てくるロバに対して、ブレッソンは一時間も説教する。スタッフは懸命に笑いをこらえている。
ゴダールが撮影を見に来た時の、ブレッソンの不機嫌さといったら。ゴダールがブレッソンの撮影を見せてもらうというのが表向きの理由だった。実はアンヌの写真を『フランス・ソワール』の一面で見て、一目惚れして見に来たのだということを、彼女は1年後に知ることになる。もちろんその後ゴダールはアンヌと結婚するのだが。
もちろん、どこまでが本当かはわからない。実際、40年も前のことをこれほど細かには覚えているのは不可能だろう。しかしこの小説が、1960年代のフランスで17歳の裕福でまじめな女子高生が、突然巨匠監督のもとで主演を演じることになったひと夏の感情の揺れ動きを、鮮烈に描いた青春小説であることは間違いない。
当たり前の話だが、少女はすべてを見て理解しているのに、大人たちは彼女が何もわかっていないと勘違いしている。
もうすぐヴィアゼムスキーが来日するというが、63歳の彼女をぜひ見てみたい。
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