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2010年11月28日 (日)

東京フィルメックス:その(4)イラン映画の現在

イラン映画が少しずつ日本に入ってきたのは、20年ほど前だろうか。その先頭を走っていたのがアッバス・キアロスタミで、『そして人生は続く』や『桜桃の味』などで毎回、我々を魅了した。しかし今世紀になってからは、『5 five』のように抽象的であえて肩すかしを与えるような映画ばかり作ってきた。ところが新作の『トスカーナの贋作』は違った。

まず、久しぶりに人間ドラマがある。人と人との微妙にすれ違う感情が細やかに描かれている。そしてその感情に呼応し、呼吸するような風景。
最初の車のシーンで、フロントガラスに映る木々と車の後ろに見える風景が、車を運転するジュリエット・ビノシュの顔のアップに混じり合う映像に、完全にしびれてしまう。あるいは散歩する4人の男女の周りをぐるぐると巡るカメラ。光をとらえることにかけてはイタリア一の撮影監督、ルカ・ビガッツィの超絶技巧と監督の感性が奇跡的な融合を見せている。
カフェの女主人に夫婦と勘違いされているうちに、次第に夫婦そのもののようになってゆくビノシュと作家役のウィリアム・シメル。イタリアで英語とフランス語を話す二人は、ロッセリーニの『イタリア旅行』をさらに進化させたかのようだ。
本物とニセモノの間の不思議な関係を、ストーリー、身体、映像などいくつものレベルで表現した傑作だ。キアロスタミはこの映画をフランスとイタリアの資本で、イタリアで撮っているが、上映後のトークでは、イランの映画製作状況は厳しいので外国で撮らざるを得ないことや、次回作は日本で撮ることを語った。

コンペのイラン映画『ハンター』は、妻を殺された男の復讐を巡る不思議な話だ。あえて物語よりも、迫力ある細部を作りだし、見ているとまるで悪夢のような気がしてくる。この映画の監督兼主演のラフィ・ピッツも上映後のトークで、製作の許可を得るのに苦労したことや、イランでこの映画がいつ上映されるかが全くわからないことを述べた。

ラフィ・ピッツも触れていたが、『チャドルと生きる』などのジャファール・パナヒ監督は新作の企画を発表しただけで逮捕されたままだ。『ペルシャ猫を誰も知らない』のバフマン・ゴバディ監督がパスポートを発給されず、来日できなかったことも記憶に新しい。
アミール・ナデリ監督も日本で撮影中という。日本がイランの優れた監督に次々と新作を撮る機会を与えているようだ。映画祭がそのようなきっかけになるのは、すばらしいことだと思う。


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