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2010年12月30日 (木)

年末に読む朦朧小説

年末に妙なものを読んだ。朝吹真理子という新人作家の小説『流跡』だ。堀江俊幸氏選考のドゥマゴ文学賞を最年少で受賞したとのことで、書評やインタビューを新聞などで目にしていたが、本屋でほとんど真っ白な装丁の薄い本を見て、買ってみた。著者は今年で26歳らしいが、この朦朧体はなかなかのものだ。

主人公と言うか語り手は、舟乗りだったと思ったら、会社員の男だったり、しまいには女になる。文体自体が朦朧としていて、詩のように進んでゆく。それも和の感覚だ。古井由吉とか、最近だと松浦寿輝に近いか。

「はれ。ひやらひやら。
轟きとともに、ロータリーのアスファルトがにわかにうごもち、人気の失せたアーケードの脇から、いままで乗っていたバスのなかから、タクシーから、コンビニから、ドラッグストアの角から、駅の出口から、そして空からも四方八方あふれだすように、おおどかなすがたかたちの大金魚があらわれはじめた。やんややんやとビルの間の煙突を囲むように集いはじめ、はれ。ひやらひやらと、でたらめな調子をとって囃したてはじめる。」

こんな記述を読むと幻想小説かとも思うが、中年の男が少年の頃の自分と重ね合わせたり、死んだ後に火葬されて骨が煙として世界に散っていく様を想像したり、なかなかリアルでもある。

出だしは本が読めないという話で、最後は文字をキーボードに打つところで終わる。原稿用紙わずか百枚くらいだろうが、出だしや終わり方も含めて相当の力量だと思う。技に溺れず、普通の物語を書いてゆけば、相当の作家になるのではないか。

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