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2010年12月26日 (日)

新聞記者が書いた本:その(2)

古賀重樹氏の『1秒24コマの美 黒澤明・小津安二郎・溝口健二』は、同じ新聞記者の本でも、先日ここで紹介した田中三蔵氏の『駆け抜ける現代美術』とは大きく異なる。田中氏の本は20年間の記事から自信作を選んだもので、おのずと時代が浮かび上がる仕組みになっていた。しかし古賀氏の本は、最近書いた3本の連載をまとめたものだ。

巨匠の3人について、それぞれ400字で60枚ほどを書いた文章だが、ここには制約があった。書いたのは日曜版の「美の美」という見開きの枠だが、もともと美術欄なので、映画を語りながら「美術」の話を入れなければならなかった。その制約が逆にこの本をおもしろくしていると思う。

「完全主義」と言われた黒澤の映画を「絵作り」という点から解明すると、驚くべき事実が出てくる。例えば『七人の侍』の勝四郎と志乃が出会う林の一面の野菊は、「小道具の浜村幸一の述懐によると四トン車で十五台分位はあったという」。
あるいは『影武者』の長篠の戦いで馬がバタバタと倒れるシーンは、「北海道のロケ地には百三十頭の馬が用意され、十五人ほどの獣医師が集められた。……馬術指導の号令で、白衣を着た獣医師は手分けして百三十頭の馬に麻酔を打つ。馬は次々と崩れていく」。

小津については、美術品考証をした北川靖記に一緒に『秋日和』を見てもらい、ここにかかっているのが梅原龍三郎、こちらが山口蓬春、向こうは高山辰雄と教えてもらう。そしてそのカットをカラー写真で載せている。撮影が終わると、毎日絵画を経理課の金庫に入れたというエピソードも書かれている。
あるいは小津が幕末・明治の浮世絵を百三十枚も所蔵しており、それは現在平木浮世絵美術館に収蔵されているという。

新聞記者の特権は、新聞に書くと言えば、誰でも会ってくれることだ。この本はそれを最大限に発揮して、3人の巨匠を蘇らせるのに成功している。溝口について聞くために、パリに行って今年亡くなったロメールにまで会っているのだから。どんな評論家も研究者もまずできないことだろう。

あえて言えば、なぜこの3人の映画がおもしろいか、という映画の本質的な部分がどこか抜け落ちているような気もする。小津のショットにどの名画があったかではなく、なぜあのように繋がらないショットの連続が作られたのか、どうしてそれが感動を呼ぶのかというような問いである。そこには同じように矩形に区切られた映画と絵画という2つの芸術をめぐる、根源的な問題が横たわっている。

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