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2010年12月24日 (金)

新聞記者が書いた本:その(1)

最近、新聞記者が書いた本をたて続けに2冊買った。一つは朝日新聞の田中三蔵著『駆けぬける現代美術 1990-2010』で、もう一つは日経新聞の古賀重樹著『一秒24コマの美 黒澤明・小津安二郎・溝口健二』。田中氏は20年近く編集委員を務めた人で、古賀氏は最近編集委員になったばかり。ともに知人なので書きにくいが、本を寄贈されたわけではないので、率直なところを書く。

田中氏の本は、何よりひたすら懐かしい。この20年間というのは、ほぼ自分が会社員生活をしていた時期にあたり、そのうえ出てくるいくつかの美術展や美術館に係わったことがあるので、読んでいるとぼーっとしてくる。

第二章「揺らぐ土台/美術館・博物館」では、93年に準備中だった東京都現代美術館の作品購入問題を追及し、98年からは連続して独立行政問題を取り上げる。そして06年の和田氏盗作疑惑の徹底追及。最後の記事がすごいのは、和田氏を芸術選奨と東郷青児美術館大賞に選んだ委員全員に取材している点だ。そのうち瀧悌三、米倉守の両氏が怪しいと睨み、彼らが和田氏について何本も文章を書いたことや二人が委員を務める「両洋の眼」の「河北倫明賞」でも和田氏を選んだことを指摘する。そしてその二人に取材拒否されことも、克明に書く。

ちなみにこの文章には触れていないが、瀧氏は日経新聞、米倉氏は朝日新聞のそれぞれ元編集委員である。同業の先輩たちを追い回すという、最もやっかいな仕事に取り組んだ情熱はどこから来たのだろうか。それはこの本の第一章の中の「旧態依然の団体展を疑う」という93年の記事を読むとわかる。
これは日展や二科展などの団体展を「新しい価値の創造とは程遠い存在となってしまった」と書き、徹底的に批判したものだ。いくつかの記事には本人の現在のコメントが載っているが、ここには田中氏が朝日の文化面から初めて団体展・公募展評を廃止したことが書かれている。

瀧、米倉両氏はまさに日経や朝日で団体展評を書いていた記者だった。そして美術界、とりわけ画壇=団体展に深いつながりを持っていた。田中氏は美術記者になるやいなや、それらを一挙に立ち切った。そして他紙は数年をかけてこれに追随した。この勇気と情熱が、和田氏問題追及まで続いていたのではないか。

ほかにも終章の「回顧の回顧」など、今読むと懐かしい記事が多い。田中氏の20年にわたる取材の跡は当時は何とも思わなかったが、こうしてまとめてみると、貴重な時代の証言になっている。

古賀氏の本は後日。

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