« シャブロルの高笑い | トップページ | 『アンストッパブル』に手を握り締める »

2011年1月10日 (月)

『荒地の恋』に見る中年男の恋愛

今年で50歳になる。だからというわけではないだろうが、友人からねじめ正一著『荒地の恋』という小説を読んだらと貸してもらった。数年前に話題になって気になっていたが、読んでいなかった。詩人の北村太郎が田村隆一の妻と恋に落ちてからの顛末で、詩人や作家が実名で登場する。久しぶりに読んでいて止まらなくなるほど、おもしろかった。

53歳の北村が妻に不倫を告げるところから、物語は始まる。「言ったぞ、俺は言ったぞと大声で叫びたくなるような解放感だ」。それから修羅の道が始まる。妻はだんだん精神に異常をきたすが、家を出て田村の妻、明子とアパート暮らしを始める。

最初は幸福だった。田村が別の恋人を見つけたこともあって、万事がうまくいきそうだった。ところが、田村の恋人が家事もできない20代の女だったこともあり、明子は田村が心配になって時々家に帰りだす。もともと明子の家だったので、家が荒れてゆくのを許せなかった。明子は家に戻り、田村は家を出る。北村は明子の家の近くに引っ越す。そしてついには明子の家に住みだす。そこに戻ってくる田村。
結局、北村が何回引っ越したのかわからない。そのうち明子も精神を病む。ある時北村は、自分が出演する詩のイベントに来ていた少女、阿子と知り合い、付き合いだす。毎日手紙を書く夏の日々。「今の北村にとって、詩とはすなわち阿子への手紙である」。

1988年からは、北村の短い日記の抜粋だ。北村は田村と離婚した明子と再度住み始める。最後は92年10月、北村の葬式に出る結婚した阿子の独白。最終章は「すてきな人生」と銘打たれているが、最後まで読むとたしかにそうだと思う。他人の妻を好きになるのは普通の人間でもあると思うが、自由に家を出たり何度も引っ越したりというのは、さすが詩人たちだ。
北村は妻への仕送りもあって、引っ越すたびに金がなくなる。そのわびしさは、時おりピンクレディの歌が挿入されていたりする昭和の風景にぴったりで、何とも懐かしい。カルチャーセンターで教えることを楽しんだり、自分の本が本屋に並んでいるのを見て喜んだり、子供のように素直な北村の姿もいい。

これを読んで、辻井喬の『虹の岬』を思い出した。これも中年男の恋愛話だ。『虹の岬』の方がより文学的だが、私は『荒地の恋』の方が好きだ。いずれにしてもこういう小説をおもしろがるところが、まさに中年になった証拠なのだろう。

|

« シャブロルの高笑い | トップページ | 『アンストッパブル』に手を握り締める »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/50543005

この記事へのトラックバック一覧です: 『荒地の恋』に見る中年男の恋愛:

« シャブロルの高笑い | トップページ | 『アンストッパブル』に手を握り締める »