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2011年2月11日 (金)

『手に職。』がうらやましい

先日、「一畳敷」の展覧会を見たINAXギャラリーには、1階にちょっと個性的な書店がある。小さいながら建築や都市をキーワードに、なかなか渋い本が並んでいて、いつも時間を過ごす。「一畳敷」に衝撃を受けた後に和風の気分になってそこで買ったのが、森まゆみ著の新書『手に職。』だ。

自分は手に職がない。何一つ技術を持っていないのに、どうでもいいことを偉そうに話したり、文章を書いたりして何とか食ってきた、いわば典型的な「口舌の徒」だ。だから、手に職のある人は尊敬する。ましてやそれが、昔ながらの職人さんならなおさらだ。

この本に登場するのは、江戸時代からめんめんと続いてきたような職人さんばかりだ。『谷中・根津・千駄木』の編集人である森まゆみ氏が彼らを訪れ、話を聞く。江戸前の口調までが蘇るような本だ。鮨、大工、三味線、江戸和竿、手植ブラシ、指物、足袋、提灯と続く。全部で20人。

例えば鮨職人は「もともと鮨は白身、鯛や平目やキスでしょう。脂気の多いものは握らない。トロなんて昔は捨ててた」「ウニやイクラなんて鮨じゃない」「通ぶる客はいやな感じだね。手で握ったものを手で食べるんだから気楽なものだよ」。

三味線の職人は「昔は下町の商家でも職人でも、何か一つは芸事をやったもんですからね。常盤津、清元、長唄」「いまは店にいきなり飛び込んできて、三味線やりたいなんて方がいますね、季節の変わり目に多いんです」。

こんな調子で進んでいくので、とにかく読んでいて楽しい。とりあえず巻末の店のリストを見て、手植の洋服ブラシでも買いに行こうかなと思っている。
あとがきで、森氏は「大学に行っても料理人や大工になる者が増えてきた」と書いている。彼女自身の長男が大学を中退して大工になったという。

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コメント

初めてコメントいたします。
いつも楽しみに拝読しています。
今日の話は

柳宋悦の「手仕事の日本」
齊藤隆介「職人衆昔ばなし」
昨年なくなった田中さんの言葉を集めた「現代棟梁 田中文男」
などが想起されました。
ご存知でしょうか。

投稿: 料理大好き | 2011年2月11日 (金) 14時04分

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