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2011年2月24日 (木)

『ザ・ファイター』を『あしたのジョー』と比べると

アカデミー賞6部門7人ノミネートという、『ザ・ファイター』を見た。「どん底からしか見えない、頂点がある」などとチラシに書かれているので、『あしたのジョー』のようなものかと思ったが、全く違った。あらゆるシーンや登場人物が細かく計算されたこの映画に比べたら、『あしたのジョー』はほとんど抽象劇に見える。

そのくらい『あしたのジョー』は、人物の陰影に乏しかった。監督はエネルギーのすべてを、リングの上の闘いの表現に傾けたかのようだ。

その点、『ザ・ファイター』は違う。元チャンピオンで麻薬中毒の兄と、過保護な母に囲まれて、静かにチャンピオンを目指す主人公。彼には恋人もできるが、兄や母のせいで試合はうまくいかない。とうとう弟は彼らを振り切って、恋人と共に世界チャンピオンを目指す。ラストは感動の嵐だ。

何ともよくできた脚本による人間ドラマで、俳優たちもすばらしい。とりわけクレイジーな兄を演じるクリスチャン・ベイルが、迫真の演技を見せる。いかにもアカデミー賞助演男優賞向きという感じか。弟を演じるマーク・ウォールバーグの淡々とした姿と好対照だ。

そのうえ、構成もうまい。出だしからドキュメンタリータッチだ。すぐにそれは元有名なチャンピオンだった兄の現在をたどるテレビの撮影だとわかる。終わりもこのテレビ撮影。もちろん状況は変わっている。その後にこの物語が実話だったことがわかり、実際の兄弟の写真が映る。この二重、三重のリアリティ作戦は、ちょっとうますぎるかもしれない。

さすがアメリカ映画は脚本がうまいなと思っていた時、『映画を書くためにあなたがしなければならないこと シド・フィールドの脚本術』という本を読んだ。1977年に書かれて改訂を重ね、世界22ヶ国で翻訳されており、日本では2009年に出ている。
「脚本家のバイブル」と言われる本らしいが、読んでいると何だかいやになってきた。あらゆるハリウッドのヒット作の脚本のどこがどううまいかが綿密に書かれているが、これを真似したからといって、おもしろい映画ができるのだろうか、という気になる。少なくとも日本映画には当たらないような気がする。

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2011年2月28日(現地時間2月27日)に行われた第83回米国アカデミー賞で、助演男優賞(クリスチャン・ベール)、助演女優賞(メリッサ・レオ)の2冠を獲得した映画『ザ・ファイター』。この作品は、実在のボクサー、ミッキー・ウォード&ディッキー・エクランド兄弟の葛藤と復活を描いた物語です。主人公は、マーク・ウォールバーグ演じるミッキー・ウォード。道路整備の仕事をしながら試合に挑むものの、当座のファイトマネー欲しさに不利な試合ばかり組まれ、一勝もできないでいるボクサーです。...... [続きを読む]

受信: 2011年3月 8日 (火) 03時26分

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受信: 2011年3月15日 (火) 21時52分

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