「秘めたる恋」のおもしろさ
今回の芥川賞は受賞者二人の取り合わせがおもしろくて『文藝春秋』を買ったが、小説を読む前に「秘めたる恋」という特集にはまってしまった。田中角栄や小津安二郎、向田邦子など35人の知られざる(あるいは今や忘れられた)恋がうちわけ話風に書かれていて、そのいくつかに驚いたり、感心したりした。
田中角栄の愛人だった「越山会の女王」こと佐藤昭子については、特別に娘に立花隆氏が聞くという形を取っている。心に残ったのは、角栄が娘に会うと「ヘッドロックのように」抱きしめたという話だ。角栄には別に芸者の辻和子という愛人もいて、『熱情 田中角栄をとりこにした芸者』という本を書いているが、かつての大人物は女をたくさん持って、それぞれの家族に愛されることができたのだ。
小津安二郎が唯一結婚を考えた、森栄とのエピソードもいい。死の床にあった小津を彼女が毎日訪ねていたなんて知らなかった。
外務省の密約事件で逮捕された毎日新聞記者と外務省の女性事務官の話も、当時彼女に手記を書かせた「週刊新潮」の元記者が書いていて、リアルだ。10年後に「あの人は今」の企画で会いに行ったエピソードから始まって、読ませる。
中原誠名人との不倫を語る林葉直子は、そうとうぶっ飛んだ文章でおかしい。福岡の母が中原名人のテレホンカードを保存していたエピソードが泣かせる。「いいやない。あんたが恋しとった人やろうもん、捨てる事もないっちゃけん」。彼女は今朝の朝日新聞にも、変なインタビューを載せている。
そのほか六代目歌右衛門の20代の時の、使用人の男との駈落ち事件とか、妻妾を同居させた渋沢栄一とか、昔の人は、やることが大胆だ。
終わりの鹿島茂と香山リカの対談「秘密の恋の時代は終わったのか」もおかしい。特に鹿島の言うことは、奥が深い。「昔の悪い言葉に“一盗二婢三妾”という言葉がある。男にとって、一番楽しいのは人の女を盗むこと、二番目は妻の目を盗んで若い女中や下女を抱くこと、三番目は妾を囲うという意味です」「僕の理論では恋愛感情はある一定期間以上、限定された空間に男女が閉じ込められない限り生まれない」。妙に納得した。
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