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2011年2月 1日 (火)

胸を衝かれるイヴ・サンローランの生涯

前にも書いたように、ドキュメンタリー映画は撮られる対象が興味深い人間だと俄然おもしろくなる。『ハーブ&ドロシー』が典型的な例だが、『イヴ・サンローラン』はそれとは違った意味で、胸を衝かれた。

サンローランはもちろん有名なフランスのファッション・デザイナーで、私は彼の生きた時代も世界もほとんど知らない。それなのに、その生き方は胸に迫るものがあった。
最初は彼の引退宣言の記者会見から始まる。ついで盟友ピエール・ベルジェによる葬儀の送る言葉。パリのバビロン通りのアパートやモロッコのマラケッシュに買った別荘、あるいはノルマンディの別荘でサンローランの思い出を語るベルジェ。この映画の原題は、L'amour fou つまり「狂気の愛」だ。二人の同性愛者の劇的な出会いと別れが、残された男の口から語られる。

サンローランは男で好きなところはと聞かれて、poil「体毛」と答える。女では「魅力」という抽象的な答え。最も不幸なことは「禿げること」。やりたいことは「長い旅に出て何もしないで、戻ってきてまたファッションをやりたいか、試してみたい」。
ベルジェはサンローランが遊び過ぎると怒って、プラザ・アテネ・ホテルやルテシア・ホテルに引き込んでしまう。まるで、すねた女の子みたいだ。
90年代のサンローランのさびしい顔。ベルジェは「年に2度、コレクションの後の挨拶の時だけ明るい顔をした」と言う。その時でさえも映像を見てみると、笑いの合間に暗い表情が見える。

サンローランが死んで、ベルジェと買い込んだ美術のコレクションはオークションに出される。モンドリアン、アンソール、ピカソ、ブランクーシ等々。これが終わりのシーンだ。近くに家具のようにあった数々が次々と売られてゆくのを、じっと見つめるベルジェ。

決してドキュメンタリーとして、レベルの高い演出がなされているわけではない。しかしながら、この映画は20世紀のパリを生きた者の貴重な記録であり、純粋な同性愛の軌跡でもある。その時代を生きた者すべてに訴えかける力を持っている。

実を言うと、映画にも出てくるパリのモンテーニュ通りのサンローラン財団に通ったことがある。彼が引退宣言をして財団を作った後で、亡くなる1年ほど前だ。そこには彼が手がけた服の数々が最初のコレクションからすべて保存されていた。当時は日本で展覧会をしようとしていたが、自分の異動もあって実現しなかった。誰かこれからやってくれないだろうか。

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