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2011年3月20日 (日)

楊逸の「大きな物語」

久しぶりに「大きな物語」を読んだ気がした。中国生まれで日本語で小説を書く楊逸(ヤン・イー)の芥川賞受賞作『時が滲む朝』のことだ。文庫になったので何げなく買ったが、もはや日本の小説からはなくなった「大志を抱く若者の青春と挫折」を描いた大仕掛けの小説に、胸が躍った。

大志を抱いて中国の地方大学に入学した大学生が、天安門事件を経験して挫折し、日本に渡る。そして11年後に日本で、かつて自分たちの運動を指導した教師に再会する。

天安門事件を主導して海外に逃れた有名な指導者たちではなく、無名の地方学生の浩遠が主人公だ。地方から数日天安門に出かけて帰ってきて、くだらない飲み屋の喧嘩で逮捕されて放校処分を受ける。
中国に複数の政党ができて、官僚の腐敗を監視し、民主的な国家になることを祈ってデモをする彼らの情熱は、あまりにも純粋でまぶしい。そして日本で送る挫折の日々。東京で再会した先生は、自分がかつて憧れた女学生と一緒だった。

学生運動の挫折を扱ったこんな劇的な小説は、もう柴田翔の『されどわれらが日々』以来、読んでいないような気がする。あるいはむしろ堀田善衛などの戦後派の小説に近いかもしれない。
急に中国に行きたくなった。80年代の開放政策から89年の天安門事件と08年の北京五輪を経て現代まで、わずか20年で濃厚な歴史をたどった国。

もう一つ。この小説を読んで、中国人に妙に親近感を覚えた。それくらい自分は中国の普通の人々の考えに触れていないということだろう。毎日テレビで中国の政治家たちの自信満々の演説を見ていたら、誰だって嫌になる。そういえばフランスで『中国の傲慢』L'arrogance chinoiseという本が話題になっているという。最近の中国がいかに外国に対して傲慢かが書かれているらしい。傲慢の国と言えばフランスだろうと、思わず笑ってしまった。

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