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2011年3月11日 (金)

羨ましい古書狂い

練馬区立美術館で、「鹿島茂コレクション1 グランヴィル 19世紀フランス幻想版画」展を見た。仏文学者の鹿島茂氏が買い集めた絵入り本や版画の中から、版画家グランヴィルのものを集めて展示したものだ。一つ一つの作品は小さいものが多いため、展覧会としての見ごたえはいま一つだが、これが個人の蒐集だというのが信じられない。

鹿島氏は『子供より古書が大事と思いたい』という題名に表れているように、古書狂いで有名だ。古書はいわゆる古本と違う。部数の限られた稀覯本で、鹿島氏の場合はこれが19世紀フランスの絵入り本だ。日本人がなぜフランスの古書を買い集めるのか、などは野暮な質問だ。とにかく欲しいから買う。

その買い方が尋常ではない。その様子は自著やインタビューで記されているが、年に2、3度パリに行って古書店を巡り、買い求める。欲しい本が出てくると、もう2度と巡り合えないような気がして買ってしまう。最近はカードで買えるから、無限に買える。そうして後で借金地獄に苦しむ。いわゆるサラ金と名のつくすべての会社から借りたことがあるという。

もともと研究をするため、本を書くために古書を買っていた。それが自己目的化し、古書を買うお金を作るために本を書く。さらには古書狂いの様子を本にする。ほとんど私小説作家だ。鹿島氏は長らく大学の教員だから収入は安定しているとはいえ、何十万円や何百万円の本は、普通は買えないはずだ。

だいぶ前に神田にあった彼のオフィスに行ったことがある。膨大なフランスの古書に囲まれて、本当に幸せそうで羨ましく思った。その後しばらくして、彼の百冊目の本の出版を記念する会にも行った。いまやもう120冊くらい書いたのだろうか。

展覧会に戻ると、一つ一つ細かく見ていると、グランヴィルの何でもありの風刺精神がおもしろい。特に人間を動物に似せて描いた絵が楽しい。人間の生態を描き尽くすという点で、同時代の作家バルザックのような存在に思えてきた。カタログが上質な紙で版画の色合いがうまく再現されていて、見ていると何とも楽しい。そのドタバタの喜劇は、メリエスの世界にも通じるものもある。
展覧会は4月3日まで。

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