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2011年4月15日 (金)

余命わずかの中年の映画:『Biutiful ビューティフル』

末期ガンで余命わずかと宣告された中年が、残された日々を子供とどう生きるかという内容の映画を、最近2本続けて見た。メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督がバルセロナで撮った『Biutiful ビューティフル』と中国のシュエ・シャオルー監督の『海洋天堂』。ともに妻に去られて、中年男が一人で悩む点も似ている。

題名にあるBiutifulというのは、ハビエル・バルデム演じる中年の父親が娘に英語を教えるシーンで、娘が誤って書く綴りのことだ。映画全体がその綴りのように、切なく痛々しい。

余命二カ月の前立腺ガンと宣告される父親は、中国人やアフリカ人の移民にブランドの模造品を作らせて売ったり、工場に違法移民を送り込んだりして暮らしている。妻は薬物依存の躁鬱病で別居中だ。

アフリカ人たちは路上で大量摘発され、地下の一室で暮らす中国人たちは一酸化炭素中毒で全員死んでしまう。子供たちは勉強ができず、偏食がちだ。父親は外国に行って記憶にない自分の父が遺骨で戻って来たことを知る。

そんな絶望的な毎日を、手持ちのカメラが心が揺れるようにとらえてゆく。家の中も外も暗いシーンばかりだが、早朝の散歩や夕方の沈む夕陽など、時おりほっとするようなショットもある。強制帰国させられたアフリカ人の妻、イヘとの交流も心が温まる数少ない場面だ。

最後まで、救いはない。しかしそこには、死んでゆく中年男の強い生の軌跡が残る。主人公のみならず、その父親も、子供も、アフリカ人たちも中国人たちも、くっきりと生きた跡を残す。

それにしてもイニャリトゥ監督は、見ていてつらい映画ばかり撮る。いつも現代的な問題に真正面から取り組むうえに、手持ちカメラを中心にした撮影も息を飲むほど鮮烈だが、なぜかちょっと疲れてしまう。あまりに正しく、美しすぎるからかもしれない。

バルセロナは昨秋に行ったばかりだが、このような暗黒の世界は全く見なかった。何と治安がいい街だろうと思ったくらいだった。やはり観光客には何も見えていない。

『Biutifulビューティフル』は6月25日公開。『海洋天堂』については、後日書く。

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» オトコに見せたいこの映画『BIUTIFUL ビューティフル』#movie /第25週(火曜担当/松村 知恵美) [menstrend.jp]
幼い子ども二人を抱え、余命二ヶ月の宣告を受けた父親。スペイン第二の都市・バルセロナの貧困地区で生まれ育ち、そこで非合法に金銭を稼ぎながら生きて来た彼が、最後に遺せるものはなんなのか...。今やスペインを代表する俳優となったハビエル・バルデムが鬼気迫る演技を見せる映画『BIUTIFUL ビューティフル』。彼はこの作品でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞しています。...... [続きを読む]

受信: 2011年5月10日 (火) 02時21分

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受信: 2011年5月10日 (火) 07時26分

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