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2011年6月25日 (土)

新藤兼人が語る日本映画史

99歳の新藤兼人監督に中川洋吉氏がインタビューをした『挫折する力 新藤兼人かく語りき』が抜群におもしろい。新藤監督本人が2004年に15回にわたるインタビューに答えたもので、監督自身の制作の秘話もさることながら、彼がさまざまな映画人について自由に話す部分が痛快だ。

例えば山中貞雄について。「山中貞雄は僕にとっても、目標の監督なんです。山中が活躍していた当時、僕はまだ溝口健二なんか全然知らないんだ。見ようともおもわなかったね。後になって溝口健二が一番良いと思ったりしたけど、山中のはああいうしんどい映画じゃなくて、ぱーっと真似でもしたい感じなんです」。

杉村春子について。「芝居ではほとんど主演でしたけど、芝居の中での行き方と映画とは別のもんだとはっきり心得ていて、まるで生まれ変わるような演じ分けをしてます。小津さんの映画では、なくてはならない存在のバイプレイヤーでしょ。出演者の中に生き生きした人が一人いれば、その人を中心に演出できますから、小津さんも杉村春子のお陰でずいぶん楽したんじゃないかなあ」。

その小津安二郎について、「小津さんのシナリオの作り方は、ワンカット、ワンカット、アングルが決まったような書き方で、それは常に変わらないんです。インサートは情景が必ず三カットづつ入るんですが、そのインサートは本当に綺麗なんです。そしてシナリオ作りの最中からカット割りが出来ていて、あるものをそのまま写し撮るのではなく、あるものの中から作り上げたあるがままのもの、という感じがしますね。……どれも家庭劇だから同じようなことが繰り返し出てくる。これには驚きましたが、さらに驚いたことには、カネのかかった俳優が二十人くらいはでてくるんです。二十人も出てくると、一人が十分ほどもカメラに写って終わりだね」。

もちろん溝口健二については一番多い。それは長くなるので後日に譲るが、「この時のヴェネチアで溝口さんと田中(絹代)さんが結ばれたのは良かったと、僕は思っています」と書いてあるのにはドキリとした。新藤が溝口と飲んだ時に「僕は田中絹代に惚れてるんだけど、何とかなりませんかねえ」と言うくだりもある。

自らが脚本家・監督で、みんな死んでしまって怖い者なしの新藤監督の鋭い指摘は、従来の日本映画史に新たな視点をもたらすような気がする。

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