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2011年6月26日 (日)

イオセリーニに酔う

「フランス映画祭」でオタール・イオセリアーニの新作『Chanterapas』(原題)を見て、酒を飲んだように酔ってしまった。学生時代に『落葉』(1966)を見て以来のファンだったが、『月のお気に入り』(84)以降のフランスで作った作品にはどこかなじめないでいた。その無造作で傍若無人なユーモアが何か引っかかったのだろう。

ところが今回の新作は違う。舞台はグルジアで、まるで自伝のような映画青年の話である。故郷で映画作りに苦労し、パリに行っても不愉快なことばかりで再びもどってくるまでを、淡々と描く。

冒頭、2人の青年と1人の女が映画の仕上げの相談をしている。「切らないつもりだ」と1人が言うと握手。私はこれでガツンとやられて、次にセピア色の少年時代になって、3人が列車に連なるようにぶら下がったところで、ノックアウトされてしまった。その先はすべてがよく見えた。

アパートのベランダで楽器を演奏するおかしいシーンだな、と思っていると映画の撮影だった。他人が編集することを拒み、スプライサーを持ち歩いて自分で編集する青年。フランス人が映画を買いに現れると、盗聴を恐れて筆談をする。そしてなぜかボートでフィルム缶を運ぶ。

パリに行く時には、スプライサーを入れた箱と、チェロ、そして小鳥が2匹いる鳥籠を持つ。この鳥籠は郵便の代わりだと後にわかる。彼に部屋を提供する祖父の友人を監督が演じ、その妻役でビュル・オジエが出てきたあたりで、またやられてしまう。ソ連大使とのおかしなやりとり。なぜかいつも出てくる酒。勝手に編集されそうになった作品を自分の手に戻すが、試写は大失敗。青年はグルジアに帰り、釣竿を垂らす。そして川に身を投げて泳ぐシーンの気持ちよさ。

一見素人の映像のように無造作に見えるが、これがエレガントだ。オリヴェイラの最近の作品もそうだが、何十年も撮り続けた巨匠だけが持つ「恩寵」が下りてきている感じか。プロデューサー役にピエール・エテックスやパスカル・ボニゼールが出ていたが、ほかにもおもしろい人が出ていた気がして気になった。2月に劇場公開という。その後の監督のトークも抜群だったが、これはまた後日書きたい。

「フランス映画祭」で前日に見た『ハートブレイカ―』は、まるで日本のテレビ局が作ったようなゆるいラブ・コメディだったが、お客さんには意外に受けていた。同じ客層がこの映画を見たら、たぶん何もわからなかったのではないか。

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